【FP2級】個人の生命保険と税金〜死亡保険金の課税3パターン
今回は個人契約の生命保険の税金を解説します。契約形態に応じてどの税金が課税されるか理解しておきましょう。
- 死亡保険金の課税3パターンを理解する
- 満期保険金と解約返戻金への課税を理解する(金融類似商品には特に注意!!)
- 個人年金保険への課税を理解する
死亡保険金への課税
死亡保険金への課税3パターン
被保険者が死亡して死亡保険金が支払われると、その金額に応じて税金がかかります。
厄介なのは、生命保険の契約者・被保険者・受取人によって、課税される税金の種類が異なることです。
契約者とは保険料を支払った人、被保険者とは死亡した人、受取人とは保険金を受け取った人のことです。
下の表でパターンを整理しておきましょう。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 税金の種類 | |
---|---|---|---|---|
パターン❶ | A | A | B | 相続税 |
パターン❷ | A | B | A | 所得税 |
パターン❸ | A | B | C | 贈与税 |
ちょっと待て!そもそも相続税とか所得税とかよく分からんぞ。
そうだよね!ここから順番に解説していきます。
相続税が課税される場合(パターン❶)
まず、“相続税”とは死亡した者の財産を受け取った人に課される税金です。
亡くなった人の預貯金や不動産を相続した人は、相続財産の評価額に所定の税率をかけた相続税を納めることになります。
金持ちが死ぬと遺族はめちゃくちゃ税金かかるってことか
例えば、Aさんが自分自身を被保険者として保険料を支払っていた生命保険契約があるとします。そして、Aさんが亡くなって死亡保険金を妻のBさんが受け取ったとしましょう。
この場合、保険契約者と被保険者はAさん、受取人はBさんになるため、保険金を受け取ったBさんには相続税が課税されることになります。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 税金の種類 | |
---|---|---|---|---|
パターン❶ | A | A | B | 相続税 |
パターン❷ | A | B | A | 所得税 |
パターン❸ | A | B | C | 贈与税 |
相続税法上、死亡保険金は”みなし相続財産”という扱いになります。詳しくは、コチラで解説しています。
もう1つ覚えておきたいのは、死亡保険金は”法定相続人”の数に応じて一定金額が非課税になるということです。
非課税となる金額 = 500万円 × 法定相続人の数
例えば、死亡保険金が3,000万円で法定相続人が2名だった場合、1,000万円(500万円×2名)が非課税枠となり、残りの2,000万円が相続税の課税対象になるということです。
ここで注意すべきなのは、死亡保険金の非課税枠が使えるのは、死亡保険金の受取人が法定相続人の場合だけだということです。
逆に言えば、受取人が法定相続人以外であった場合、非課税枠は使えません。
法定相続人について詳しくは以下の講義で解説しています。
所得税が課税される場合(パターン❷)
次に、“所得税”とは自分自身の所得に応じて課せられる税金です。
給料はもちろん、資産運用や不動産の売買で得た利益にも課税されます。
簡単に言うと、”儲け”に対して課税される税金のことです。
また、所得税は”儲け”の種類によって細かく分類され、給与所得や一時所得、譲渡所得や雑所得など様々な種類があります。
所得税の詳細は、タックスプランニング(D分野)で学習します。ここではイメージだけ理解しておけば大丈夫です。
例えば、Aさんが妻Bさんを被保険者として保険料を支払っている生命保険契約があるとします。その後、Bさんが亡くなって死亡保険金をAさんが受け取ったとしましょう。
この場合、保険契約者と受取人はAさん、被保険者はBさんになるため、保険金を受け取ったAさんには所得税が課税されます。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 税金の種類 | |
---|---|---|---|---|
パターン❶ | A | A | B | 相続税 |
パターン❷ | A | B | A | 所得税 |
パターン❸ | A | B | C | 贈与税 |
ん?誰かが死んで受け取った保険金なんだから、相続税じゃないのか?
よく考えてみてください。
このケースでは、Aさんはあくまで自分自身が支払っていた保険契約に基づき、死亡保険金を受け取っています。
表現は不適切かもしれませんが、Aさんは死亡保険金(収入)から自分が支払った保険料(支出)を差し引いた金額が儲かったわけですよね。
このような儲けに対して課税される税金は、所得税になるということです。
更に細かく言うと、死亡保険金は所得税の中でも“一時所得”に分類されます。
所得税にも色々種類があるんだな
一時所得の金額は以下のように計算されます。
一時所得の金額 = (受取保険金 − 払込保険料総額)− 特別控除50万円
例えば、死亡保険金が3,000万円で払込保険料総額が2,000万円だった場合、3,000万円−2,000万円−50万円=950万円が一時所得の金額になるということです。
贈与税が課税される場合(パターン❸)
最後に、“贈与税”とは自分以外の個人から財産を受け取った者が納める税金のことです。
ざっくり言うと、死亡した人から受け取った財産には相続税、生きている人から受け取った財産には贈与税が課税されます。
例えば、Aさんが妻Bさんを被保険者として保険料を支払っている生命保険契約があるとします。その後、Bさんが亡くなって死亡保険金を娘のCさんが受け取ったとしましょう。
この場合、保険契約者はAさん、被保険者はBさん、受取人はCさんとなり、受取人のCさんに対して贈与税が課税されます。AさんからCさんに贈与があったとみなされるからです。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 税金の種類 | |
---|---|---|---|---|
パターン❶ | A | A | B | 相続税 |
パターン❷ | A | B | A | 所得税 |
パターン❸ | A | B | C | 贈与税 |
もう1つ覚えておきたいのは、贈与税には110万円の基礎控除があると言うことです。
贈与税の課税対象額 = 死亡保険金 − 基礎控除110万円
つまり、1,000万円の死亡保険金を贈与財産として受け取った場合、1,000万円−110万円=890万円が贈与税の課税対象額になるということです。
満期保険金や解約返戻金に対する税金
所得税(一時所得)と贈与税
満期保険金や解約返戻金は、契約者と受取人が同じ場合は所得税(一時所得)、異なる場合は贈与税の課税対象となります。
所得税は自分自身の所得に対して課せられる税金でしたね。
このため、自ら契約者として保険料を支払って受け取った保険金は、支払保険料との差額が儲けとして所得税(一時所得)の課税対象になります。
一方、贈与税は個人から財産を受け取った人に課せられる税金です。
従って、自分以外の誰かが契約者として保険料を負担していた保険の満期保険金や解約返戻金を受け取った場合、契約者から受取人への贈与あったものとして、贈与税の課税対象となります。
満期保険金や解約返戻金は、被保険者が生存している時に受け取る金銭のため、相続税の対象にはなり得ません。
金融類似商品
契約者と受取人が同一の保険契約のうち、以下の全ての条件に該当する満期保険金や解約返戻金は“金融類似商品”として、20.315%の源泉分離課税の対象となります。
終身保険や分割払いの保険は、5年以内に解約しても金融類似商品にはなりません。
ここで言う金融類似商品とは、簡単に言うと「金融商品に近い保険契約」のことです。
一般的に生命保険は長期の保障を目的としますが、保険契約期間が5年以内の短期契約や満期保険金の金額が大きい契約は資産運用目的に近くなります。
そのような商品は「お金儲け目的だよね」とみなされ、株式や投資信託の儲けと同じように、20.315%の源泉分離課税になるわけです。
給付金に対する税金
生命保険契約では、死亡保険金や満期保険金以外にも、一定の条件を満たすと支払われる給付金があります。
給付金のうち、以下に該当するものは原則として非課税となります。
- 病気やケガに支払われる給付金(入金給付金・手術給付金・通院給付金)
- 高度障害保険金、三大疾病保険金
- リビング・ニーズ特約給付金
病気やケガの給付金は、そこから税金を取ったら治療や通院費用が払えなくなってしまいますよね。このように、損失を補てんするような給付金には課税されません。
リビング・ニーズ特約ってなんのことだ?
“リビング・ニーズ特約”とは、余命6か月以内と診断された場合に、死亡保険金を前払いで受け取れる特約のことです。
リビング・ニーズ特約で受け取った特定給付金は、受取り時点で税金は課税されません。
最終的に被保険者が亡くなった時点で使いきれなかった分は、残額に応じて遺族に相続税が課税されることになります。
個人年金保険への課税
個人年金保険への課税も、基本的には満期保険金や解約返戻金と似たような考え方です。
契約者と受取人が同じ場合は所得税、異なる場合は贈与税の課税対象となります。
所得税に関して、年金を一括で受け取る場合は一時所得、分割で受け取る場合は雑所得になることには注意が必要です。
この他、まだ年金支払いが開始されていない時に契約者が死亡すると、遺族が将来の“年金受給権”を相続することになります。
この場合、年金受給権を相続した者には相続税が課税されます。
年金受給権の価値は、当該年金の“解約返戻金相当額”で評価されます。
個人年金保険を忘れてしまった方は、以下の講義で復習しておきましょう。
過去問チャレンジ
それではFP2級試験対策として、実際の過去問を見てみましょう。
生命保険の税金に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。なお、いずれも契約者(=保険料負担者)ならびに保険金、年金および給付金の受取人は個人であるものとする。
- 契約者と被保険者が同一人である一時払終身保険において、被保険者がリビング・ニーズ特約に基づいて受け取る特約保険金は非課税となる。
- 契約者と被保険者が同一人である一時払終身保険において、保険期間の初日から5年以内に解約し、解約差益が生じた場合、その解約差益は源泉分離課税の対象となる。
- 契約者と被保険者が同一人である養老保険において、被保険者の相続人ではない者が受け取った死亡保険金は、相続税の課税対象となる。
- 契約者と被保険者が異なる個人年金保険(保証期間付終身年金)において、年金受取開始前に被保険者が死亡して契約者が受け取った死亡給付金は、一時所得として所得税の課税対象となる。
(2024年5月 FP2級学科)
それでは解説していきます。
❶適切。
設問のとおりです。”リビング・ニーズ特約”とは、余命6か月以内と診断された場合に、死亡保険金を前払いで受け取れる特約のことです。保険金の受取り時点では非課税で、遺族に相続された残額が相続税の課税対象になります。
❷不適切。
解約返戻金が金融類似商品として源泉分離課税となるのは、❶5年以内に解約、❷保険料の払込み方法が一時払い、❸死亡保険金が満期保険金の5倍以内の3条件を満たした場合です。終身保険はそもそも満期保険金という概念がないため、❸の要件を満たしません。このため、設問の解約差益は通常の生命保険と同じように、所得税(一時所得)として総合課税の対象となります。従って、設問の記載は誤りです。やや難問ですが、「終身保険は金融類似商品にはならない」ことをしっかり押さえておきましょう。
❸適切。
設問のとおりです。契約者と被保険者が同一で、受取人が異なる保険契約であるため、受取人に対して相続税が課税されます。この点は受取人が相続人でも、赤の他人でも関係ありません。ただし、相続人以外の者が死亡保険金を受け取った場合、死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)の適用を受けることはできません。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 税金の種類 | |
---|---|---|---|---|
パターン❶ | A | A | B | 相続税 |
パターン❷ | A | B | A | 所得税 |
パターン❸ | A | B | C | 贈与税 |
❹適切。
設問のとおりです。契約者=受取人の保険契約であり、所得税(一時所得)の課税対象になります。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 税金の種類 | |
---|---|---|---|---|
パターン❶ | A | A | B | 相続税 |
パターン❷ | A | B | A | 所得税 |
パターン❸ | A | B | C | 贈与税 |
以上により、正解は❷となります。
今回の学習はここまでです。次回はリスク分野の最難関、法人契約の生命保険と経理処理を解説します。