【FP2級】事業承継対策と事業承継税制〜株価の引下げ、非上場株式の贈与税・相続税の納税猶予制度
今回は企業オーナーの事業承継対策を解説します。自社株の評価額引き下げや事業承継税制の特例を理解しておこう。
- 自社株評価の引き下げ対策を理解する
- 相続税の納税資金対策を理解する
- 事業承継税制の特例を理解する
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自社株の引き下げ対策
自社株の引き下げ対策が必要な理由
類似業種比準方式や純資産価額方式による評価額が高いと、株式を相続した人の相続税負担が多くなってしまいます。
特に安定的に利益を上げていたり、過去の蓄積により純資産額が大きい会社では、ほうっておくと想定外の相続税が発生してしまう可能性があります。
このため、事業承継の前にあらかじめ自社株の評価を引下げておく対策が重要です。
自社株評価の引き下げ方法には次のようなものがあります。
聞き慣れない言葉が多いですね。
でも大丈夫です。
FP2級では概略を理解していればOKなので、心配せずについてきてください。
特別配当や記念配当の活用
類似業種比準価額は、比準3要素(配当金、利益、純資産)のいずれかを圧縮することで、評価額を引き下げることができます。
比準3要素のうち「配当金」を圧縮する手段として、特別配当や記念配当を活用する方法があります。
普通配当ではなく特別配当または記念配当であることがポイントです。
普通配当では類似業種比準価額方式の「1株あたり年配当金」の評価を上げてしまうため、支給による引き下げ効果はありません。
これに対して特別配当や記念配当は「1株あたり年配当金」の計算には含まれないため、配当を増やした分だけ純資産を圧縮して評価額を引下げることができるわけです。
特別とか記念ってなんなんだ?
特別配当は業績が極めて好調であった決算期に一時的にプラスされる配当のことです。記念配当は「創立10周年記念」などのイベントに合わせて通常の配当にプラスされる配当を指します。
この方法はあくまで類似業種比準価額を下げるのに有効であって、純資産価額の引き下げ効果はないので注意してください。
役員退職金の支給
企業オーナーの引退に合わせて「役員退職金」を支給することで、会社の利益と純資産を圧縮することができます。
類似業種比準価額と純資産価額どちらにも引き下げ効果があります。
最もシンプルな株価引き下げ対策と言えるでしょう。
時価評価よりも相続税評価額が低い資産(不動産など)の購入
時価評価よりも相続税評価額が低い資産を購入することで、純資産価額を引き下げることができます。
時価評価よりも相続税評価額が低い資産の代表例は不動産です。
不動産は一般的に購入時の時価よりも相続税評価額の方が低くなるため、その差額分が純資産の圧縮に繋がるわけです。
例えば、1億円で購入した不動産の相続税評価額が7,000万円であれば、差額3,000万円分の純資産が圧縮されることになります。
これにより純資産価額が引き下げられ、相続税の納税額も減少するというわけです。
この方法は純資産価額の引き下げには有効ですが、類似業種比準価額の引き下げ効果はないので注意してください
高収益部門の分離、貸倒損失の計上
高収益部門の分離や貸倒損失の計上により利益を減らし、純資産を圧縮することもできます。
ただし、これらの対策は株価の引き下げには効果がある反面、会社の健全な経営に影響に及ぼしては元も子もないため、やり過ぎには注意する必要があります。
納税資金の準備
非上場株であっても業績が良ければ高い評価がつきます。
一方で上場株とは異なり換金性が乏しいため、相続しても資金化が難しく、相続税の納税資金が不足する事態に陥りがちです。
こういった問題を回避するために、会社の資金を潤沢にして、相続人から自社株を買い取りできるようにしておくことが有効な対策となります。
具体的な方法として、生命保険の活用と生命保険金を活用した自社株の買取りが挙げられます。
契約者(=保険金負担者)および保険金受取人を法人、被保険者をオーナー経営者とする生命保険契約を結んでおくことで、オーナー経営者に万が一のことがあれば会社に保険金が入ります。
この保険金を相続人から自社株を買い取るための資金として活用するわけです。
自社株の取得には株主総会の決議が必要です。
会社が買い取った自社株式のことを「金庫株」と言います。
この他、後継者の役員報酬を増額しておくことで、後継者の手元に納税資金を確保しておくといった対策もあります。
また、遺留分に関する民法の特例(除外合意・固定合意)の活用も有効な対策です。
遺留分に関する民法の特例を忘れてしまったという方は、以下の講義で復習しておきましょう。
事業承継税制(特例)
事業承継税制の特例が生まれた背景
日本国内では中小企業オーナーの高齢化が進み、円滑な事業承継が課題となっています。
一方で、事業承継をしようとしても、自社株の評価額が高い場合には、後継者に多額の相続税が課せられてしまいます。
非上場株式の譲渡は通常、申告分離課税により、20.315%の譲渡所得が課税されます。
2008年には後継者の贈与税や相続税の支払いを猶予してもらえる「事業承継税制」が整備されましたが、利用要件が厳しく、あまり使われてはいませんでした。
こうした中で2018年に税制改正が行われ、事業承継税制の利用要件が10年間限定で緩和(2027年末まで)されることになりました。
これが非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予制度(特例)です。
- 非上場株式等の贈与税の納税猶予制度
- 非上場株式等の相続税の納税猶予制度
事業承継税制は、相続時精算課税制度との併用も可能です。
非上場株式等の贈与税の納税猶予制度(特例)
“非上場株式等の贈与税の納税猶予制度”とは、後継者が非上場株式の贈与を受けた場合に発生する贈与税の支払いが全額猶予される制度です。
特例を利用するには、都道府県知事に特例承認計画を提出する必要があります。
猶予期間は贈与者が死亡するまでです。
贈与者が死亡した時点で猶予期間は終了し、代わりに贈与時の時価で取得したものとして相続税の課税対象となります。
なんだよ、結局最後は税金払わされるのか
一定要件を満たせば継続して”非上場株式等の相続税の納税猶予”が受けられるんだ。それにより最後は相続税が全額免除される。詳しくはこの後に解説します。
非上場株式等の相続税の納税猶予制度(特例)
“非上場株式等の贈与税の納税猶予制度”とは、非上場株式を相続した場合に発生する相続税の支払いが全額猶予される制度です。
さらに、途中で株を譲渡するなどの取消事由に該当することなく、受贈者(後継者)自身が死亡するまで株を保有し続けた場合、猶予されていた相続税が全額免除されます。
死ぬまで持ってれば相続税払わなくていいんだな!
カピバラくんの言う通り、猶予とは言いつつ、実質的に相続税の支払いがゼロになる制度です。
先ほど解説した贈与税の納税猶予制度を受けていた場合は、贈与者が死亡した後でこちらの制度に切り替えすることができます。
なお、贈与税の場合と同じく、都道府県知事への特例承継計画の提出が必要となります。
非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予制度は、相続時精算課税制度と併用ができます。
個人事業主の事業用資産に係る納税猶予制度
最後に“個人事業主の事業用資産に係る納税猶予制度”を解説します。
この制度は、個人事業主が贈与や相続により事業用の土地や建物を取得した場合、贈与税や相続税が全額猶予される制度です。
なお、”個人事業主の事業用資産に係る納税猶予制度”は、“特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の課税標準の特例”とは併用できません。
小規模宅地の特例は以下の講義で復習しておきましょう。
まとめ
それではFP2級試験対策として、今回の学習範囲のまとめです。
- 自社株評価の引き下げにより相続税を軽減できる
※特別配当・記念配当、役員退職金、不動産の購入など - 生命保険を活用した自社株の買取りにより、後継者の納税資金を準備できる
- 贈与税の納税猶予制度の活用により、贈与税の全額が猶予される
- 相続税の納税猶予制度を活用し、後継者が死亡時まで株を保有し続けることで、相続税の全額が免除される
今回の学習はここまでです。次回はいよいよ「相続・事業承継」の最終回!会社法について解説します。
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