【FP2級】居住用財産の譲渡の特例〜3,000万円特別控除・軽減税率の特例・買換えの特例・譲渡損失の損益通算と繰越控除
今回は居住用財産の譲渡の特例を解説していきます。FP2級では学科・実技ともに重要なのでしっかり理解しておきましょう。
- 3,000万円特別控除を理解する
- 居住用財産の譲渡による軽減税率の特例を理解する
- 両特例を使った計算問題が解けるようになる
- (余裕あれば)買換えの特例と譲渡損失の損益通算と繰越控除も理解する
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居住用財産の譲渡の特例とは
4つの特例
不動産の売却益がは譲渡所得として課税されますが、譲渡資産が居住用不動産(マイホーム)の場合には税制上の優遇を受けることができます。
優遇措置には主に4つの種類がありますが、これら特例はまとめて「居住用財産の譲渡の特例」といわれています。
- 3,000万円の特別控除
- 軽減税率の特例
- 特定の居住用財産の買換えの特例
- 譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例
うぅ…すでに戦意を喪失しているんだが
FP2級試験では❶と❷が頻出で、❸と❹の出題頻度は低めです。せめて❶と❷だけはおさえておこう!
4つの特例の共通要件
特例は無条件に利用できるわけではありません。
これらの特例を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 過去3年に特例の利用がないこと(3年に1回しか利用できない)
- 特別関係者(配偶者、直系血族)への譲渡ではないこと
- 居住の用に供さなくなった日の3年後の12月31日までの譲渡であること
今回の講義で学習する4つの特例すべてに当てはまる共通要件です。
まずはこの点をおさえたうえで、各特例を学習していきましょう。
居住用財産の3,000万円の特別控除
3,000万円の特別控除とは
“居住用財産の3,000万円の特別控除”とは、居住用財産の譲渡で得られた譲渡所得から3,000万円を控除できる特例です。
譲渡所得金額とは譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いたものです。
たとえば譲渡所得金額が5,000万円であれば、3,000万円を控除した2,000万円が課税対象になります。
譲渡所得金額が3,000万円以下であれば、全く課税されません。ただし、その場合でも確定申告は必要になるので注意が必要です。
所有期間の要件はありません。
つまり、マイホームを買ってすぐに売ったとしても特例を利用できるということです。
土地・建物が夫婦の共有名義になっている場合は、夫と妻それぞれ3,000万円の特別控除を受けることができます(つまり合計6,000万円)。
居住用財産の軽減税率の特例
軽減税率の特例とは
“居住用財産の軽減税率の特例”とは、居住用財産の課税譲渡所得に対して、通常よりも低い税率が適用される特例です。課税譲渡所得6,000万円以下の部分が特例の対象です。
課税譲渡所得が8,000万円の場合は、6,000万円までは税率14.215%、残りの2,000万円は税率20.315%になります。
重要なのは、軽減税率の特例と3,000万円の特別控除は併用できるということです。
たとえば課税譲渡所得が8,000万円の、まずは3,000万円を控除し、残った5,000万円全額に軽減税率を適用できるということです。
適用の要件
ただし、軽減税率の特例を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
3,000万円の特別控除には、所有期間の要件はありませんでした。
この違いがFP2級試験で問われます。
3,000万円特別控除と軽減税率の計算問題
3,000万円の特別控除と軽減税率の特例をつかった税額計算問題にチャレンジしてみましょう。
譲渡した年の1月1日時点で所有期間が12年の居住用財産を12,000万円で譲渡しました。取得費は不明、譲渡費用は400万円です。居住用財産の3,000万円の特別控除と軽減税率の特例を活用する場合、所得税と住民税の合計額はいくらになるでしょうか?
さきほど学習したとおり、3,000万円の特別控除と軽減税率の特例は併用できます。
まずは、3,000万円特別控除後の課税譲渡所得金額を求めてみましょう。
課税譲渡所得金額は次のように求めます。
課税譲渡所得金額 = 譲渡価額ー(取得費+譲渡費用)ー特別控除3,000万円
しかし、問題文では取得費が不明となっていますね。
わかったぞ!概算取得費だな!
そのとおり!取得費不明のときは概算取得費を使います。
概算取得費は譲渡価額の5%なので、次のように計算します。
12,000万円×5%=600万円
したがって、課税譲渡所得金額は次のようになります。
12,000万円ー(600万円+400万円)ー3,000万円=8,000万円
次に税額を求めていきます。
軽減税率の特例により、課税譲渡所得金額6,000万円までの税率は14.21%、それを超える部分の税率は20.315%になります。
【6,000万円までの部分】6,000万円×14.21%=8,526,000円(A)
【6,000万円を超える部分】2,000万円×20.315%=4,063,000円(B)
(A)+(B)=12,589,000円
以上より、答えは12,589,000円となります。
特定居住用財産の買換えの特例
特定居住用財産の買換えの特例とは
3,000万円の特別控除と軽減税率の特例は、居住用財産を譲渡した場合に利用できる特例でした。
これから学習する“居住用財産の買換えの特例”は、居住用財産を譲渡するだけでなく、新たに居住用財産を取得する場合(つまり買換えた場合)に適用できる特例です。
この特例を利用すると、次のような効果があります。
- 譲渡資産の譲渡価額 ≦ 買換資産の取得価額 の場合
➡︎ 譲渡がなかったとみなされる(課税なし) - 譲渡資産の譲渡価額 > 買換資産の取得価額 の場合
➡︎ 差額部分にのみ譲渡があったとみなされる
たとえば、譲渡価額5,000万円で買換資産の取得価額3,000万円だった場合、差額の2,000万円が課税対象になるということです。
譲渡価額より買換資産の取得価額が大きい場合は、譲渡がなかったとみなされ課税されません。
重要なのは、3,000万円の特別控除や軽減税率とは併用できないということです。
この点はFP2級試験対策としておさえておきましょう。
適用の要件
“居住用財産の買換えの特例”を利用するには複数の要件があり、なかなか複雑です。
このためFP2級対策としては以下の要件だけ覚えておきましょう。
10年と1億円がキーワードです。
買換資産にも敷地面積や床面積などの要件がありますが、非常に細かいので割愛します。
買換の特例の計算問題
では実際に”居住用財産の買換えの特例”を使った場合の税額計算をしてみましょう。
居住用財産を8,000万円で譲渡し、新たに6,000万円の居住用財産を取得しました。「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例」を利用すると、所得税・住民税の合計はいくらになるでしょうか?譲渡資産の取得費は3,500万円、譲渡費用は500万円です。
このケースでは「譲渡資産の譲渡価額8,000万円 > 買換資産の取得価額6,000万円」となり、差額の2,000万円が収入金額とみなされます。
難しいのは取得費と譲渡費用の扱いです。
取得費と譲渡費用は全額差し引くことはできず、譲渡価額に対する収入金額の割合だけを費用とすることができます。
つまり、差し引きできる取得費と譲渡費用は次のように計算します。
$$(3,500万円+500万円)\times\frac{2,000万円}{8,000万円}$$
$$=1,000万円$$
よって、譲渡益は2,000万円−1,000万円=1,000万円。
所得税と住民税の合計額は、
1,000万円 × 20.315%=2,031,500円
ということになります。
軽減税率の特例は併用できないので、税率は20.315%になります。
出題頻度は低いですが余裕があれば解けるようにしておきましょう。
居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除
譲渡損失の損益通算・繰越控除とは
居住用財産の譲渡は利益が出るケースばかりではなく、損失が発生することもあります。
3,000万円で取得した土地が2,000万円でしか売れないことも当然考えられますよね。
一方で、不動産の譲渡所得は分離課税であるため、通常であれば損失を他の所得と損益通算することはできません。
しかし、一定の要件を満たす居住用財産の譲渡損失は、他の所得と損益通算することが認められています。
これが譲渡損失の損益通算の特例です。
たとえば、給与所得のある人が、居住用財産を譲渡して損失が発生した場合、その損失を給与所得から差引くことで所得全体を減らせるというわけです。
所得が減れば納める税金も少なくて済みますよね。
更にその年に通算しきれなかった損失は、翌年以降3年間にわたって繰越しができます。
これが譲渡損失の繰越控除の特例です。
損益通算の特例と繰越控除の特例を活用すると、最大で4年間、譲渡損失の通算ができるということです。
FP2級試験対策として重要なのは、他の居住用財産の特例(3,000万円特別控除、軽減税率の特例、買換の特例)との併用はできないということです。
ただし、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)との併用はOKです。
適用の要件
損益通算・繰越控除の特例を利用するには、以下の要件を満たす必要があります。
住宅ローンや合計所得金額の要件があるのは、損益通算・繰越控除の特例だけです。
過去問チャレンジ
それでは実際の過去問を解いてみましょう。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(以下「3,000万円特別控除」という)および居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(以下「軽減税率の特例」という)に関す る次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
- 3,000万円特別控除は、居住用財産を配偶者に譲渡した場合には適用を受けることができない。
- 3,000万円特別控除は、居住用財産を居住の用に供さなくなった日から5年後に譲渡した場合には、適用を受けることができない。
- 軽減税率の特例は、譲渡した居住用財産の所有期間が、譲渡した日の属する年の1月1日において10年を超えていなければ、適用を受けることができない。
- 3,000万円特別控除と軽減税率の特例は、重複して適用を受けることができない。
(2020年1月 FP2級学科)
それでは解説していきます。
❶適切。
設問のとおりです。配偶者や直系血族などの特別関係者への譲渡は特例の対象外です。他の居住用財産の特例でも共通の要件です。
❷適切。
設問のとおりです。特例を受けるには、居住の用に供さなくなった日の3年後の12月31日までに譲渡しなければなりません。他の居住用財産の特例でも共通の要件です。
❸適切。
設問のとおりです。所有期間が”1月1日時点で10年超”という要件は必ず覚えておきましょう。一方、3,000万円の特別控除では所有期間の要件はありません(取得後すぐに売却しても特例を利用できる)。
❹不適切。
3,000万円特別控除と軽減税率の特例は併用ができます。一方、買換の特例や譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例は、他の特例との併用ができません。
以上により、正解は❹となります。
4つの特例の中でも、3,000万円特別控除と軽減税率の特例は頻出です。
残りの2つは後回しでも良いので、3,000万円特別控除と軽減税率の特例だけはしっかり理解しておきましょう。
今回の学習は以上です。次回は空き家の特例など、居住用財産以外の特例を解説します。特例続きでしんどいとは思いますが、不動産分野はここが踏ん張りどころです!
試験前の追い込みには“直前対策note”がおすすめだぞ