【FP2級】不動産の譲渡所得〜短期譲渡所得と長期譲渡所得
今回は不動産の譲渡所得を解説します。取得費・譲渡費用の考え方や、短期譲渡所得・長期譲渡所得の違いを押さえておきましょう!
- 不動産の取得費と譲渡費用を理解する
- 不動産の短期譲渡所得と長期譲渡所得を理解する
試験前の追い込みには“直前対策note”がおすすめだぞ
不動産の譲渡所得
申告分離課税
所有している土地や建物などの不動産を売却して利益が出ることがあります。
近年は都心の土地の価格は値上がりを続けており、30年前に2,500万円で買った渋谷区内のマンションが5,000万円で売れたなんて話も耳にします。うらやましい限りですね。
しかし、利益に税金はつきものです。
不動産も例外ではなく、土地や建物の売買で得られた利益は譲渡所得として課税されます。
譲渡所得は基本的には総合課税なのですが、不動産の譲渡所得は例外的に“申告分離課税”となります。
申告というのは確定申告が必要ということ、分離課税とは他の所得とは区分して課税されるということです。
不動産と同じく、株式の売買で得た利益も申告分離課税になります。
不動産の譲渡所得の計算
不動産の譲渡所得は次のように計算されます。
譲渡価額とは売却価格のことです。
土地を5,000万円で売却すれば譲渡価額は5,000万円ですし、2,000万円で売却すれば譲渡価額は2,000万円です。これは簡単ですね。
FP2級試験で問われるのは、取得費と譲渡費用の考え方です。
順番に見ていきましょう。
取得費と譲渡費用
取得費
取得費とは、土地や建物を取得してから売却するまでにかかった費用のことです。
具体的には、次のようなものが取得費になります。
- 土地や建物の取得金額
※建物は減価償却費を差引く - 購入時の仲介手数料、不動産取得税、登録免許税、印紙税
- 購入後に発生した設備費・改良費
- 相続・遺贈で取得した場合は、支払った相続税の一定金額(相続税の取得費加算の特例)
建物の場合は、取得金額から減価償却費を差し引くことに注意しましょう。
減価償却とは、固定資産を購入した年に一度に経費とするのではなく、数年に分割して少しずつ費用計上するルールのことです。
減価償却の方法には定額法と定率法がありますが、2016年4月以降に取得した建物の減価償却方法は定額法に限定されます。
“相続税の取得費加算の特例”は、少し詳しく解説しておきます。
でもよ、昔から持ってる土地の取得費なんか覚えてないんじゃないか?先祖代々の土地とかよ
カピバラくんの言う通り、取得日が大昔だと取得金額が分からないようなケースもあります。
先祖代々の土地もそうですし、20年前に支払った仲介手数料の金額なども忘れてしまっている可能性大です。
その場合は、譲渡金額の5%を取得費とみなすことができます。
これを“概算取得費”といいます。
たとえば、土地を3,000万円で売却したケースでは、「3,000万円×5%=150万円」を概算取得費とすることができます。
概算取得費は、実際は取得費を覚えている場合でも使うことができます。
土地を3,000万円で売却したケースでは、実際の取得費が150万円未満であれば、概算取得費(3,000万円×5%=150万円)を使う方が有利になります。
取得費が大きいほど譲渡所得を減らせる(=納税額が減らせる)わけですからね。
概算取得費は超重要です。実技試験の計算でも使うことがあるので、しっかり覚えておきましょう。
注意したいのは、不動産の所有期間中に支払った固定資産税と都市計画税は、取得費に含めることはできないということです。このあと学習する譲渡費用にも含めることはできません。
この点はFP2級試験対策としてしっかり押さえておきましょう。
譲渡費用
譲渡費用とは、土地や建物を譲渡する際に要した費用のことです。
具体的には次のようなものが譲渡費用となります。
- 譲渡時の仲介手数料、登記費用、印紙税
- 賃借人への立退料
- 建物の取壊し費用、測量費
- 売却のための広告費
繰り返しになりますが、固定資産税や都市計画税は譲渡費用に含めることはできないので注意しましょう。
取得費と譲渡費用のまとめ
取得費と譲渡費用に含まれるもの・含まれないものを整理しておきましょう。
取得費に含まれるもの | ☑︎土地や建物の購入金額 ※建物は減価償却費を差引く ☑︎購入時の仲介手数料、不動産取得税、登録免許税、印紙税 ☑︎購入後に発生した設備費・改良費 ☑︎支払った相続税の一部(相続や遺贈で取得した場合) |
譲渡費用に含まれるもの | ☑︎譲渡時の仲介手数料、登記費用、印紙税 ☑︎賃借人への立退料 ☑︎建物の取壊し費用、測量費 ☑︎売却のための広告費 |
どちらにも含まれないもの | ☑︎固定資産税、都市計画税 |
短期譲渡所得と長期譲渡所得
短期譲渡所得と長期譲渡所得の違い
不動産の譲渡所得は、売却した不動産の所有期間に応じて短期譲渡所得と長期譲渡所得に分かれます。
短期譲渡所得は税率が高く、長期譲渡所得は税率が低くなります。
投機目的の短期売却よりも、実需に基づく長期保有後の売却を優遇しているわけです。
では、どれだけの期間保有すれば長期譲渡所得になるのでしょうか。税率と合わせて見ていきましょう。
“譲渡した年の1月1日時点”というのは、とても重要なポイントです。
次の練習問題を見てみましょう。
2018年4月1日に取得した土地を2023年5月1日に譲渡した場合、短期譲渡所得と長期譲渡所得のどちらになるでしょう?
このケースでは実際の所有期間は5年1か月になりますね。
ただし、長期譲渡所得に該当するためには、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていなければなりません。
ここでいう”譲渡した年の1月1日”は、2023年1月1日です。この時点では所有期間は4年8か月であり、5年を超えていないため、設問のケースでは長期譲渡所得には該当しません。
したがって、答えは「短期譲渡所得」となります。
短期譲渡所得の高い税率(39.63%)が課せられるため、翌年の1月1日以降に売却した方が得策かもしれませんね。
オレなら来年になってから売るぞ
2018年4月1日に相続により取得した土地を2023年5月1日に譲渡しました。譲渡所得金額が2,300万円、取得費が1,000万円、譲渡費用が300万円だった場合、所得税と住民税の合計はいくらになるでしょうか?
今回のケースでは、譲渡した年の1月1日(2023年1月1日)時点で所有期間が5年を超えているため、長期譲渡所得に該当します。
長期譲渡所得の税率(所得税+住民税)は20.315%です。
所得税と住民税の合計金額は次のように計算します。
(2,300万円ー1,000万円ー300万円)×20.315%=2,031,500円
以上により、答えは「2,031,500円」となります。
長期譲渡所得:20.315%、長期譲渡所得:39.63%という数字は覚えておきましょう。
相続・贈与により取得した場合
最後に、相続や贈与により不動産を取得した場合の所有期間の考え方を整理しておきましょう。
ポイントは次の1点です。
相続や贈与に伴う所有権移転登記をした日ではなく、被相続人や贈与者が取得した日が取得日となります。
イメージが湧くように、練習問題を見てみましょう。
Aさんは2018年4月1日に父からの相続により取得した土地を2023年5月1日に譲渡しました。この土地は父が2017年10月1日に取得した土地です。この場合、譲渡所得は短期譲渡所得と長期譲渡所得のどちらになるでしょう?
Aさんの所有期間だけを見ると、2023年1月1日時点での所有期間は5年以下です。
しかし、土地は相続により取得したもので父の取得日を引き継ぐため、取得日は2017年10月1日として考えます。
その場合、所有期間は5年を超えるため、設問のケースは「長期譲渡所得」に該当します。
なお、この設問のケースは「相続によって取得した不動産を相続税の申告期限の翌日から3年以内に譲渡した場合」に該当するため、“相続税の取得費加算の特例”も使うことができそうです。
相続・事業承継分野とも重なるので少し難解ですが、余裕があれば押さえておきましょう。
過去問チャレンジ
それではFP2級試験対策として、実際の過去問をみてみましょう。
個人が土地を譲渡した場合の譲渡所得に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
- 相続人が相続により取得した土地を譲渡した場合、その土地の所有期間を判定する際の取得の日は、相続人が当該相続を登記原因として所有権移転登記をした日である。
- 土地の譲渡が長期譲渡所得に区分される場合、課税長期譲渡所得に対して、原則として、所得税(復興特別所得税を含む)15.315%、住民税5%の税率により課税される。
- 土地を譲渡する際に支出した仲介手数料は、譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に含まれる。
- 譲渡所得の金額の計算上、譲渡した土地の取得費が不明な場合には、譲渡収入金額の5%相当額を取得費とすることができる。
(2022年1月 FP2級学科)
定番の過去問です。同じような選択肢がこれまでに何度も出題されています。
早速、回答を見ていきましょう。
❶不適切。
相続により取得した不動産の取得日は被相続人の取得日を引き継ぎます。設問は相続人が所有権移転登記をした日としているので誤りです。
❷適切。
設問のとおりです。所得税と住民税を合わせて長期譲渡所得は20.315%、短期譲渡所得は39.62%となります。
❸適切。
設問のとおりです。譲渡する際の仲介手数料は譲渡費用に含まれます。なお、不動産を取得した際の仲介手数料は取得費の方に含むことができます。
❹適切。
設問のとおりです。取得費が不明の場合は、譲渡金額の5%を概算取得費とすることができます。
以上により正解は❶となります。
今回の学習は以上です。長期譲渡所得と短期譲渡所得の違いはしっかり理解しておきましょう。次回は”居住用財産の譲渡の特例”を解説します。
試験前の追い込みには“直前対策note”がおすすめだぞ