*このページは2020年12月27日に更新しました。
- 非上場株式の評価方法を理解する
- 3つの評価方法による株式の評価(計算)ができるようになる
非上場株式(自社株)の評価とは
3つの評価方式
今回学習するのは、取引相場のない非上場株式(自社株)を相続した際の相続税評価額の算出方法です。
取引相場がある上場株式の場合は過去の株価を基準に評価を行いますが(*)、非上場企業の場合は株価を参考にすることはできません。
(*)上場株式の評価方法はコチラで解説しています。
このため、会社の規模や株主の状況などに応じて、利益や配当金、純資産額などを考慮して個別に評価を行うことになります。
評価方法は大きく次の3種類です。
類似業種比準方式 | 事業内容が類似する上場会社の株価を基準に、評価会社の配当金額・利益金額・純資産価額を考慮して評価する方法 |
---|---|
純資産価額方式 | 評価会社を解散した場合に株主に払い出される金額を基準に評価する方法 |
配当還元方式 | 評価会社の過去2年間の配当金額を基準に評価する方法 |
それぞれの評価方式については、後ほど詳しく解説していきます。
評価方式の選択
このうち、類似業種比準方式と純資産価額方式を「原則的評価方式」、配当還元方式を「特例的評価方式」と言います。
まずは、株式を取得する人(相続人)が同族株主に該当するかによって、次のように評価方法が変わってきます。
- 同族株主の場合:原則的評価方式(類似業種比準方式、純資産価額方式)
- 同族株主以外の場合:特例的評価方式(配当還元方式)
次に、同族株主の場合は、その会社の規模に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、この2つ併用方式のいずれかで評価します。
- 会社規模が大会社:類似業種比準方式
- 会社規模が中会社:類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
- 会社規模が小会社:純資産価額方式
あくまで原則なので、大会社であっても純資産価額方式で評価するケースもあります。
会社規模の判定方法は色々あるのですが、FP2級では細かく覚える必要はありません。
ただし、従業員数が70名以上の会社は大会社として判定するということだけは必ず押さえておきましょう。
従業員70名以上の会社は「大会社」として評価する
類似業種比準方式
類似業種比準方式とは
ここからは、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式について、順番に解説していきます。
まずは、最も難解な「類似業種比準方式」からです。
類似業種比準方式とは、事業内容が類似する上場会社の株価を基準に評価する方法のことでしたね。
類似する上場会社の株価を基準として、配当・利益・純資産の3要素から評価会社の1株あたり評価額を算出します。
具体的には、次の算式により計算します。
$$類似業種比準価額=A\times\frac{\frac{b}{B}+\frac{c}{C}+\frac{d}{D}}{3}\times斟酌率\times\frac{1株あたり資本金額}{50円}$$
- A:類似業種の株価
- B:類似業種の1株あたり年配当額
- C:類似業種の1株あたり年利益金額
- D:類似業種の1株あたり純資産価額
- b:評価会社の1株あたり年配当額
- c:評価会社の1株あたり年利益金額
- d:評価会社の1株あたり純資産価額
- 斟酌率(しんしゃくりつ):大会社=0.7、中会社=0.6、小会社=0.5
配当・株価・純資産が大きいほど会社の価値が高いということになり、評価額は大きくなります。
また、会社の規模に応じて斟酌率が異なるため、配当・株価・純資産が同じであれば、小会社よりも大会社の方が評価額は大きくなります。
「1株あたり資本金額」はその名の通り、資本金を発行済株式数で割った金額のことです。
覚えることが多くて大変ですが、次の点もおさえておきましょう。
b:評価会社の1株あたり 年配当額 |
・前2年間の平均で算出 ・特別配当や記念配当は含めない |
---|---|
c:評価会社の1株あたり 年利益金額 |
・直近期1年間または前2年間の平均で算出 |
d:評価会社の1株あたり 純資産価額 |
・直近期末の簿価(含み益があっても反映しない) |
練習問題
さて、ここまでの解説だけで理解できた人はほとんどいないと思います。
ここからは実際に練習問題を解いてみて知識を定着させていきましょう。
次の非上場会社X社の1株あたりの類似業種比準価額はいくらになるでしょうか?
X社 | 類似業種 | |
株価 | ? | 400円 |
1株あたり年配当金 | 4円 | 5円 |
1株あたり年利益金額 | 70円 | 50円 |
1株あたり純資産価額 | 600円 | 300円 |
X社の会社規模は大会社、X社の1株あたり資本金の額は50円とします。
1株あたり年配当金は前2年の平均です(特別配当や記念配当は含んでいません)。
1株あたり年利益金額は前2年の平均です。
1株あたり純資産価額は簿価です(含み益は含んでいません)。
改めて類似業種比準価額の計算式を見てみましょう。
$$類似業種比準価額=A\times\frac{\frac{b}{B}+\frac{c}{C}+\frac{d}{D}}{3}\times斟酌率\times\frac{1株あたり資本金額}{50円}$$
Aには類似業種の株価(400円)、Bには類似業種の1株あたり年配当金額(5円)、Cには類似業種の1株あたり年利益金額(50円)、Dには類似業種の1株あたり純資産価額(300円)が入ります。
bにはX社の1株あたり年配当金額(4円)、cにはX社の1株あたり年利益金額(70円)、dにはX社の1株あたり純資産価額(600円)が入ります。
X社は大会社なので、斟酌率は0.7になります。
問題文にあるとおり、X社の1株あたり資本金の額は50円です。
以上を計算式に当てはめると、次のように算出することができます。
$$400円\times\frac{\frac{4円}{5円}+\frac{70円}{50円}+\frac{600円}{300円}}{3}\times0.7\times\frac{50円}{50円}=392円$$
以上から、X社の類似業種比準価額は392円となります。
いかがでしょう?
初見で回答できる人はほとんどいないと思いますが、慣れれば大丈夫です。
何度も見直して計算をマスターしておきましょう!
純資産価額方式
純資産価額方式とは
純資産価額方式とは、評価会社を解散して財産を処分した時に払い出される金額(純資産)を基準に評価する方式です。
早速、計算方法を見てみましょう。
$$純資産価額=\frac{(A−B)−((A−B)−(C−D))×0.37}{発行済株式数}$$
- A:相続税評価額による総資産額
- B:相続税評価額による負債額
- C:帳簿価額による総資産額
- D:帳簿価額による負債額
相続税評価額による純資産額(A−B)から、含み益((A−B)−(C−D))に課税される法人税等(税率37%)を控除し、その金額を発行済株式数で割ることで1株あたりの評価額を算出します。
いきなり法人税の話が出てきてびっくりしたかもしれません。
要するに、含み益には法人税が発生するので、その分は相続税評価額から差し引いてあげましょうということです。
- 一般的に評価額は、類似業種比準方式<純資産価額方式となる
- 土地や株式等の含み益が大きい会社ほど、純資産価額は高くなる
練習問題
純資産価額方式についても、練習問題で理解を深めておきましょう。
次の非上場会社X社の1株あたりの類似業種比準価額はいくらになるでしょうか?
なお、X社の発行済株式数は500千株です。
総資産価額 | 負債額 | |
相続税評価額 | 800百万円 | 300百万円 |
帳簿価額 | 500百万円 | 300百万円 |
先ほどの式に当てはめると、次のように計算することができます。
$$\frac{(800−300)−((800−300)−(500−300))×0.37}{500,000株}$$
$$=\frac{389百万円}{500,000株}=778円$$
以上から、1株あたりの純資産価額は778円ということになります。
類似業種比準方式と合わせて、計算問題に対応できるようにしておきましょう。
類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
併用方式とは
大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式で評価しますが、中会社は2つの方式を併用して評価をします。
次の表で整理しておきましょう。
中会社(大) | 類似業種比準価額×0.90+純資産価額×0.10 で評価 |
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中会社(中) | 類似業種比準価額×0.75+純資産価額×0.25 で評価 |
中会社(小) | 類似業種比準価額×0.60+純資産価額×0.40 で評価 |
中会社の規模(大・中・小)に応じて、類似業種比準価額と純資産価額価額の併用割合が変わります。
規模が大きいほど、類似業種比準価額の割合が大きくなります。
練習問題
併用方式の練習問題もやってみましょう。
次の非上場会社X社の1株あたりの評価額はいくらになるでしょうか?
X社の会社規模 | 中会社(中) |
---|---|
類似業種比準価額 | 400円 |
純資産価額 | 600円 |
X社は中会社(中)なので、Lの割合は0.75になります。
計算式は以下のとおりです。
400×0.75+600×0.25=300+150=450
以上からX社の評価額は450円ということになります。
配当還元方式
配当還元方式とは
配当還元方式というのは、過去2年間の平均配当金をもとに株価を評価する方法です。
同族株主以外が非上場株式を取得する場合は、会社規模に関係なく、配当還元方式を利用します。
- 同族株主の場合:原則的評価方式(類似業種比準方式、純資産価額方式)
- 同族株主以外の場合:特例的評価方式(配当還元方式)
それでは、配当還元方式の計算方法をみていきましょう。
$$配当還元方式=\frac{1株当たり年配当金額(過去2年の平均)}{10㌫}×\frac{1株当たり資本金額}{50円}$$
1株当たりの年配当金額を10%で還元した元本の金額で評価します。
ここでいう年配当金額には、特別配当や記念配当などは含みません。
この点は類似業種比準方式と同じです。
特定の評価会社
ここまで見てきたのは一般的な非上場会社の評価方法です。
これに対し、土地や株式が資産の大半を占める特定の評価会社の株式は、会社規模などに関係なく、原則として純資産価額方式で評価を行います。
土地保有特定会社 | 総資産に占める土地の割合が一定以上の会社(大会社は70%以上、中会社は90%以上) |
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株式保有特定会社 | 総資産に占める株式の割合が50%以上の会社 |
その他 | ・創業後3年以内の会社 ・類似業種比準価額方式の3要素が全てゼロの会社 ・開業前、休業中または精算中の会社 |
特定の評価会社は、会社規模に関係なく「純資産価額方式」で評価する
まとめ
最後にポイントをまとめておきます。
- 非上場株式の評価方法は、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式の3つ
- 大会社は類似業種比準方式、中会社は類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式、小会社は純資産価額方式で評価
- 従業員70名以上の会社は大会社
- 類似業種比準方式の斟酌率は、大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5
- 併用方式のLの割合は、中会社(大)0.90、中会社(中)0.75、中会社(小)0.60
- 同族株主以外が株式を取得する場合は、配当還元方式で評価
- 特定の評価会社は純資産価額方式で評価
各評価方法の計算式もしっかりおさえておきましょう。
特に類似業種比準価額方式と純資産価額方式の計算問題は、実技試験対策として必ずマスターしておくことをオススメします。