*このページは2020年3月8日に更新しました
不動産の譲渡所得
申告分離課税
所有している土地や建物などの不動産を売却して利益が出ることがあります。
近年は都心の土地の価格は値上がりを続けており、30年前に2,500万円で買った渋谷区内のマンションが5,000万円で売れたなんて話も耳にします。うらやましい限りですね。
しかし、利益に税金はつきものです。
不動産も例外ではなく、土地や建物の売買で得られた利益は「譲渡所得」として課税されます。
譲渡所得は基本的には総合課税なのですが、不動産の譲渡所得は例外的に「申告分離課税」となります。
申告というのは確定申告が必要ということ、分離課税とは他の所得とは区分して課税されるということです。
不動産の譲渡所得の計算
不動産の譲渡所得は次のように計算されます。
譲渡所得金額 = 譲渡価額 ー (取得費 + 譲渡費用)
「譲渡価額」とは、要するに売却価格のことです。
土地を5,000万円で売却すれば譲渡価額は5,000万円ですし、2,000万円で売却すれば譲渡価額は2,000万円です。これは簡単ですね。
FP2級で問われるのは、取得費と譲渡費用の考え方です。
順番に見ていきましょう。
取得費
取得費とは、土地や建物を取得してから売却するまでにかかった費用のことです。
具体的には、次のようなものが取得費になります。
- 土地や建物の取得金額
*建物の場合は減価償却費を差し引く - 購入時の仲介手数料、不動産取得税、登録免許税、印紙税
- 購入後に発生した設備費・改良費
- 相続・遺贈で取得した場合は、支払った相続税の一定金額(相続税の取得費加算の特例)
建物の場合は、取得金額から減価償却費を差し引くことに注意しましょう。
減価償却とは、固定資産を購入した年に一度に経費とするのではなく、数年に分割して少しずつ費用計上するルールのことです。
「相続税の取得費加算の特例」については、少し詳しく解説しておきます。
相続や遺贈によって取得した土地・建物や株式を、相続税の申告期限の翌日から3年以内に譲渡した場合には、支払った相続税のうち一定金額を取得費に加算することができます。
これを「相続税の取得費加算の特例」といいます。
カピバラくんの言う通り、土地や建物を取得したのが何十年も前だったりすると、取得費が分からないようなケースもありますね。
20年前に支払った仲介手数料の金額など、忘れてしまっている可能性大です。
その場合は、譲渡金額の5%を取得費とみなすことができます。
これを「概算取得費」といいます。
概算取得費 = 譲渡価額 × 5%
例えば、土地を3,000万円で売却したケースでは、3,000万円×5%=150万円を概算取得費とすることができます。
概算取得費は、実際は取得費を覚えている場合でも使うことができます。
土地を3,000万円で売却したケースで考えると、実際の取得費が150万円未満であれば、概算取得費(150万円=3,000万円×5%)を使う方が有利と言えます。
取得費が大きいほど譲渡所得を減らせる(=納税額が減らせる)わけですからね。
注意したいのは、不動産の所有期間中に支払った固定資産税と都市計画税は、取得費にも譲渡費用にも含めることはできないということです。
この点はFP2級の試験対策としてしっかり押さえておきましょう。
固定資産税・都市計画税は、不動産譲渡所得の取得費や譲渡費用に含めることはできない。
譲渡費用
譲渡費用とは、土地や建物を譲渡する際に要した費用のことです。
具体的には次のようなものが譲渡費用となります。
- 譲渡時の仲介手数料、登記費用、印紙税
- 賃借人への立退料
- 建物の取壊し費用、測量費
- 売却のための広告費
取得費と同様、固定資産税や都市計画税は譲渡費用に含めることはできないので、注意しておきましょう。
取得費と譲渡費用のまとめ
取得費と譲渡費用に含まれるもの・含まれないものを整理しておきましょう。
取得費に含まれるもの |
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譲渡費用に含まれるもの |
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どちらにも含まれないもの |
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短期譲渡所得と長期譲渡所得
不動産の譲渡所得は、不動産の所有期間に応じて短期譲渡所得と長期譲渡所得に分かれます。
それぞれ税率が異なり、短期譲渡所得の方が税率が高く、長期譲渡所得の方が税率が低くなります。
利益目的の短期売買よりも、実需に基づく長期保有後の売買を優遇しているわけです。
では、どれだけの期間保有すれば長期譲渡所得になるのでしょうか。
それぞれの税率と合わせて見ていきましょう。
条件 | 税率 | |
長期譲渡所得 | 譲渡した年の1月1日時点で、所有期間が5年超 | 20.315% (所得税15.315%+住民税5%) |
短期譲渡所得 | 譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下 | 39.63% (所得税30.63%+住民税9%) |
「譲渡した年の1月1日時点」というのが、とても重要なポイントです。
次の練習問題を見てみましょう。
2015年4月1日に取得した土地を2020年5月1日に譲渡した場合、短期譲渡所得と長期譲渡所得のどちらになるでしょう?
このケースでは実際の所有期間は5年1か月になりますね。
ただし、長期譲渡所得に該当するためには、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていなければなりません。
譲渡した年の1月1日は、2020年1月1日です。
この時点では、所有期間は4年8か月と5年を超えていないため、残念ながら長期譲渡所得には該当しません。
短期譲渡所得の高い税率(39.63%)が課せられるため、翌年の1月1日以降に売却した方が得かもしれませんね。
2014年4月1日に取得した土地を2020年5月1日に譲渡しました。譲渡所得金額が2,300万円、取得費が1,000万円、譲渡費用が300万円だった場合、所得税と住民税の合計はいくらになるでしょうか?
今回のケースでは、譲渡した年の1月1日(2020年1月1日)時点で所有期間が5年を超えているため、長期譲渡所得に該当します。
長期譲渡所得の税率(所得税+住民税)は20.315%です。
したがって、所得税と住民税の合計金額は、以下のように計算します。
(2,300万円ー1,000万円ー300万円)×20.315%=2,031.500円
税率を覚えていないと解けないので、長期譲渡所得:20.315%、長期譲渡所得:39.63%という数字は必ず暗記しておきましょう。
相続・贈与により取得した場合
最後に、土地や建物を相続や贈与により取得した場合の所有期間の考え方を整理しておきましょう。
ポイントは次の1点です。
相続・贈与により取得した土地・建物の取得日は、被相続人・贈与者が取得した日になる。
要するに、被相続人の取得日を相続人が引き継ぐということです。
父親から相続して取得した土地を1年後に売却したとしても、父親が取得した日が要件を満たしていれば、長期譲渡所得になるということです。
この点もFP2級対策として押さえておきましょう。