【FP2級】在職老齢年金と離婚時の分割制度(公的年金❹)
今回は”在職老齢年金”と”離婚時の分割制度”を解説します。いずれも老齢厚生年金に関連した制度です。
- 在職老齢年金の支給停止の仕組みを理解する
- 離婚時における厚生年金の分割方法を理解する
試験前の追い込みには“直前対策note”がおすすめだぞ
在職老齢年金
在職老齢年金とは
“在職老齢年金”とは、60歳以後も働きながら受給する厚生年金のことです。
本来、老齢厚生年金は老後の生活を支える年金ですが、近年は年金の受給資格を得た60代や70代でも働き続ける人が増えています。
このような人たちが会社から給料を得ながら受給する老齢厚生年金のことを”在職老齢年金”と呼んでいます。
在職老齢年金はあくまで”老齢厚生年金”の話です。老齢基礎年金は関係しないので混乱しないようにしましょう。
在職老齢年金の支給停止
在職老齢年金の仕組みでは、給与と老齢厚生年金の合計が一定金額を超える場合、老齢厚生年金の一部が支給停止になります。
要するに、現役バリバリで稼いでいる人は、年金の一部が止められてしまうということです。
“総報酬月額相当額”とは、賞与を加味した月給の平均額のことです。
“基本月額”とは、老齢厚生年金の報酬比例部分の年額を12で割った額のことです。
これらの合計が50万円を超えた場合は、超えた部分の2分の1が支給停止になります。
イメージが湧くように練習問題を見てみましょう。
- 1.Aさん(68歳)は老齢厚生年金の受給資格があるサラリーマンです。老齢厚生年金の基本月額が15万円、総報酬月額相当額が50万円の場合、在職老齢年金の仕組みにより年金額のいくらが支給停止になるでしょうか?
-
Aさんの老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計は65万円です。このうち、50万円を超える部分の2分の1に相当する老齢厚生年金が支給停止となります。
(65万円-50万円) × 1/2 = 7.5万円
したがって、Aさんの老齢厚生年金は7.5万円が支給停止となります。
- 2.Bさん(68歳)は老齢厚生年金の受給資格があるサラリーマンです。老齢厚生年金の基本月額が15万円、総報酬月額相当額が85万円の場合、在職老齢年金の仕組みにより年金額のいくらが支給停止になるでしょうか?
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Bさんの老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計は100万円です。このうち、50万円を超える部分の2分の1に相当する老齢厚生年金が支給停止となります。
(100万円-50万円) × 1/2 = 25万円 > 15万円
したがって、Aさんの老齢厚生年金の基本月額15万円全額が支給停止となります。
支給停止の対象になるのは老齢厚生年金の報酬比例部分です。このため、老齢基礎年金や厚生年金の加給年金は減額されません。
ただし、報酬比例部分が支給停止になる場合は加給年金も全額支給停止になります。
70歳以上の人は厚生年金の被保険者ではありませんが、在職老齢年金の仕組みは引き続き適用され、年金額の一部が支給停止になることがあります。
在職定時改定
“在職定時改定”とは、在職老齢年金の受給金額が年1回の頻度で改定される仕組みのことです。
在職老齢年金の受給者は働きながら年金を受給します。当然、保険料の支払いに応じて受給金額も増えてほしいわけですが、以前は受給金額に反映されるのは退職後または70歳到達時でした。
できれば支払った保険料はすぐ年金に反映して欲しいですよね。
この点が法改正され、2022年4月からは退職前や70歳到達前でも、毎年9月1日を基準日に過去1年間の納付記録を踏まえて、老齢厚生年金の受給金額が改定されるようになりました。
在職定時改定は以下の点を押さえておきましょう。
在職定時改定は、今後のFP2級試験で出題される可能性があります。ぜひ理解しておきましょう。
離婚時における厚生年金の分割制度
なぜ離婚時に厚生年金を分割するのか
続いて“離婚時における厚生年金の分割制度”を解説します。
夫がサラリーマン(国民年金の第2号被保険者)、妻が専業主婦(国民年金の第3号被保険者)の場合を考えてみましょう。
この夫婦が離婚した場合、将来の老齢給付は夫が”老齢基礎年金+老齢厚生年金”であるのに対して、妻は”老齢基礎年金”しか受給することができません。
つまり、夫はたくさんの年金をもらえるのに、妻の年金はわずかになります。妻にとっては納得がいきませんよね。
そこで妻には、夫の厚生年金の納付記録の分割を請求する権利が認められています。
これが”離婚時における厚生年金の分割制度”です。
既に年金を受給している場合は、分割請求の翌月から年金額に反映されます。
分割制度はあくまで厚生年金を対象とした制度です。分割を受けた厚生年金の納付記録は、老齢基礎年金の受給資格期間には参入されないので注意しましょう。
分割の方法には”合意分割”と”3号分割”があります。
順番に見ていきましょう。
合意分割制度
“合意分割制度”とは、夫婦間の合意または裁判所の決定に基づいて厚生年金の保険料納付記録を分割する方法です。
スムーズに夫婦間の合意が整えばOKですが、合意が整わなければ裁判所に按分割合を定めるよう、請求することもできます。
以下のポイントを押さえておきましょう。
2年以内か。忘れずに請求しないとな
3号分割制度
“3号分割制度”とは、第3号被保険者(専業主婦)からの請求により、夫婦間の合意なしで保険料の納付記録を分割できる制度です。
以下のポイントを押さえておきましょう。
手続きは合意分割よりも簡単ですが、3号分割が適用できるのは2008年4月以降の保険料納付記録に限定されます。
このため、2008年3月以前にも婚姻期間がある場合、3号分割では夫婦均等に分割することはできません。
過去問チャレンジ
最後にFP2級対策として実際の過去問を見てみましょう。
離婚時における厚生年金の合意分割制度に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
- 合意分割の分割対象となるのは、離婚当事者の婚姻期間中の厚生年金保険の保険料納付記録(標準報酬月額・標準賞与額)である。
- 離婚の相手方から分割を受けた厚生年金保険の保険料納付記録(標準報酬月額・標準賞与額)に係る期間は、老齢基礎年金の受給資格期間に算入される。
- 老齢厚生年金を減額される者の年金額は、分割請求があった日の属する月の翌月から改定される。
- 合意分割の請求は、原則として離婚成立の日の翌日から起算して2年を経過するまでの間にしなければならない。
それでは解説していきます。
❶適切。
設問のとおりです。分割対象は婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録です。
❷不適切。
合意分割制度はあくまで厚生年金の制度であり、分割を受けた納付記録は老齢基礎年金の受給資格期間には参入されません。なお、老齢基礎年金の受給資格期間は10年以上です。忘れてしまった方は、老齢基礎年金の講義で復習しておきましょう。
❸適切。
設問のとおりです。年金額は分割請求があった翌月から改定されます。
❹適切。
設問のとおりです。分割請求は離婚成立日の翌日から起算して2年以内に行わなければなりません。
以上により、正解は❷となります。
今回の学習は以上です。次回は”障害給付”を解説します。長丁場の公的年金もいよいよ後半戦です。
試験前の追い込みには“直前対策note”がおすすめだぞ