【FP2級】老齢厚生年金〜厚生年金の老齢給付(公的年金❸)
今回は”老齢厚生年金”を解説します。老齢厚生年金の仕組みを理解し、計算まで出来るようになるのが目標です。
- 老齢厚生年金の仕組みを理解する
- 老齢厚生年金の計算が出来るようになる
試験前の追い込みには“直前対策note”がおすすめだぞ
老齢厚生年金とは
老齢厚生年金の位置付け
厚生年金は会社員や公務員が加入する年金で、公的年金制度の2階部分に当たります。
今回学習する老齢厚生年金は、厚生年金の”老齢給付”に該当します。すなわち、長生きリスクに対応する給付となります。
特別支給の老齢厚生年金と老齢厚生年金
老齢厚生年金には、“特別支給の老齢厚生年金“と“(本来の)老齢厚生年金”があります。
このうち、”特別支給の老齢厚生年金”は制度の終了が近づいており、現在の受給対象者は一部の方に限定されています。
FP2級試験対策においては、”(本来の)老齢厚生年金”の方をしっかり学習していきましょう。
今後のFP試験では、”特別支給の老齢厚生年金”はほぼ出題されないと思います。出ないところを覚えても仕方ないので、本講義では”(本来の)老齢厚生年金”に絞って解説していきます。
昭和61年の法改正により、老齢厚生年金の受給開始年齢は60歳から65歳に引き上げられました。しかし、60歳からの年金受給を期待していた人が急に年金を受給できなくなるのはあまりに不公平です。
このため国は経過措置として、当面の間は60歳から特別に厚生年金を支給し、徐々に受給開始年齢を引き上げていくこととしました。
これが“特別支給の老齢厚生年金”です。
“特別支給の老齢厚生年金”は、報酬比例部分と定額部分で構成されます。受給者が65歳に達すると、報酬比例部分は老齢厚生年金(報酬比例部分)に、定額部分は老齢基礎年金になります。
しかし、これはあくまで経過措置であり、制度は間もなく終わりを迎えます。
具体的には、昭和36年(1961年)4月2日以降に生まれた男性、昭和41年(1966年)4月2日以降に生まれた女性は”特別支給の老齢厚生年金”は受給できず、65歳から本来の老齢厚生年金を受給することになります。
つまり、現役世代の大半は”特別支給の老齢厚生年金”の対象外となります。
老齢厚生年金の受給要件
老齢厚生年金は、以下の要件を満たしたときに原則65歳から支給されます。
老齢厚生年金は公的年金の2階部分に当たるため、そもそも1階部分の老齢基礎年金の受給資格がなければ支給されないということです。
一方で、老齢厚生年金の被保険者期間は1か月だけでもあればOKです。
老齢基礎年金の受給資格期間を忘れてしまった方は、前回の講義で復習しておきましょう。
老齢厚生年金の年金額
老齢厚生年金の構成要素
老齢厚生年金は、報酬比例部分、経過的加算、加給年金の3つで構成されます。
このうち報酬比例部分と経過的加算を足した額を”基本年金”といいます。
加給年金は、厚生年金加入期間や配偶者の年齢に応じて支給されるかどうか決まります。
順番に見ていきましょう。
報酬比例部分
“報酬比例部分”は老齢厚生年金の本体に当たります。
その名のとおり、被保険者の報酬に応じて年金額が変わります。報酬が多い人ほど厚生年金の保険料を多く支払っているので、それだけ年金も多くもらえるということです。
厚生年金の保険料は”(標準報酬月額+標準賞与額)×18.30%”です。労使折半で負担します。忘れてしまった方は、前々回の講義で復習しておきましょう!
報酬比例部分の年金額は以下のとおり計算します。
報酬比例部分の額=❶+❷
$$❶平均標準報酬月額×\frac{7.125}{1,000}$$
$$×2003年3月以前の被保険者月数$$
$$❷平均標準報酬額×\frac{5.481}{1,000}$$
$$×2003年4月以後の被保険者月数$$
これ覚えるのか?
FP2級では計算式が問題文に示されます。なので”7.125″や”5.481″といった数字の暗記は不要です。ただし、計算方法は理解しておく必要があります。
計算式だけでは全くイメージが湧かないと思うので、具体的なケースで見てみましょう。
Aさんの厚生年金の加入歴が下図の場合、65歳から受給できる老齢厚生年金の報酬比例部分の額はいくらになるでしょうか。円未満は四捨五入して求めましょう。
先ほどの計算式に当てはめて計算します。
まず、2003年3月以前の分は、平均標準報酬月額28万円を基準に計算します。
$$280,000円×\frac{7.125}{1,000}×264月=526,680円$$
次に、2003年4月以後の分は、平均標準報酬額40万円を基準に計算します。
$$400,000円×\frac{5.481}{1,000}×228月=499,867.2円$$
最後にこれらを合計して、円未満を四捨五入します。
526,680+499,867.2円=1,026,547.2円➡︎1,026,547円
以上により、報酬比例部分の年金額は1,026,547円となります。
慣れてしまえば難しくありません。実技試験対策として解き方をしっかり理解しておきましょう。
平均標準報酬月額と平均標準報酬額の違いは次のとおりです。
- 平均標準報酬月額:ボーナスを加味しない平均月給
- 平均標準報酬額:ボーナスを加味した平均月給
2003年3月までは、”平均標準報酬月額”を基準に厚生年金保険料が計算されていました。
しかし、サラリーマンの中には月給は少なくてもボーナスが多い人もいるわけで、月給だけで保険料を決めるのは不公平ですよね。
こうした不公平を解消するため、2003年4月以降はボーナスを加味した”平均標準報酬額”を基準に厚生年金保険料が計算されるようになりました。
以上のような背景により、報酬比例部分の年金額は2003年3月以前と2003年4月以降を分けて計算することになったのです。
経過的加算
“経過的加算”とは、老齢基礎年金の計算にはカウントされない被保険者期間の年金を、厚生年金の方で上乗せする仕組みです。
早速、計算式を見てみましょう。
$$1,701円×被保険者期間の月数(上限480月)$$
$$−816,000円×\frac{20歳以上60歳未満の被保険者月数}{480月}$$
老齢基礎年金は、20歳以上60歳未満の間の国民年金加入期間をもとに年金額が算出されます。このため、仮にこの間で未納期間があれば、老齢基礎年金は減額されてしまいます。
一方で、20歳以上60歳未満の間に未納があっても、厚生年金の被保険者として20歳未満もしくは60歳以上の期間に保険料を支払っているケースがあります。
経過的加算は、このような国民年金ではカウントしてもらえなかった被保険者期間を厚生年金の方で上乗せしてもらえる制度です。
分かったような、分からないような・・・
このあたりは複雑なのでなんとなく理解しておけば十分です。
それではFP2級試験対策として、経過的加算の計算問題を見てみましょう。
Bさんは、22歳から62歳までの40年間(480月)、厚生年金に加入していました。それ以外の厚生年金の加入歴はありません。厚生年金における経過的加算の額はいくらになるでしょうか。
Bさんの場合、厚生年金に加入していた期間は40年(480月)ですが、老齢基礎年金の計算上は22歳から60歳までの38年間(456月)しかカウントしてもらえません。
この2年分が経過的加算として支給されるイメージです。
それでは計算式に当てはめてみましょう。
$$1,701円×480月−816,000円×\frac{456月}{480月}$$
=816,480−775,200=41,280円
従って、経過的加算の額は41,280円となります。
20歳以上60歳未満の間に未納がなくても、計算上、数百円程度の経過的加算が老齢厚生年金に上乗せされます。ゼロ円にはならないので注意しましょう。
加給年金
加給年金の受給要件
“加給年金”とは、65歳未満の配偶者や18歳未満の子を持つ被保険者を対象に、厚生年金にプラスして支給される年金のことです。簡単にいうと”年金版の家族手当”です。
以下の受給要件を押さえておきましょう。
配偶者は法律上の婚姻関係がない“事実婚(内縁関係)”でもOKです。
ただし、配偶者自身が加入歴20年以上の老齢厚生年金を受給する権利がある場合は、支給の対象外となります。
加給年金は配偶者が65歳に達するまで、または子が18歳に達するまで支給されます。
加給年金の受給金額
加給年金の受給金額は以下のとおりです。
例えば、65歳未満の配偶者と18歳未満の子が1人いる場合は、合計で469,600円支給されることになります。
これに加え、受給権者(厚生年金の被保険者本人)の生年月日に応じて、“配偶者特別加算額”が加算されます。
“配偶者特別加算額”は、受給権者の年齢が若いほど金額が大きくなるのが特徴です。
振替加算
配偶者が65歳に達すると加給年金は支給されなくなる代わりに、配偶者の老齢基礎年金に上乗せの年金が支給されます。これを“振替加算”といいます。
夫の加給年金が妻に振替えられるから”振替加算”というわけです。
ただし、1966年4月2日以降に生まれた者には振替加算は支給されないので注意が必要です。
振替加算の金額は配偶者の年齢に応じて異なります。FP2級試験では計算方法を覚える必要はありません。
老齢厚生年金の繰上げ受給と繰下げ受給
老齢基礎年金と同じく、老齢厚生年金も繰上げ受給・繰下げ受給が可能です。
年金額の増減率など、基本的なことは老齢基礎年金と同じです。
繰上げは0.4%×月数の減額、繰下げは0.7%×月数の増額でしたね。忘れてしまった方は前回の講義で復習しておきましょう。
厚生年金の繰上げ・繰下げ支給で注意しなければならないのは、加給年金の扱いです。
繰下げしても加給年金は増額されないという点がポイントです。
加給年金の受給権がある場合、繰下げ受給はしない方が有利かもしれません。
過去問チャレンジ
FP2級試験では加給年金に関する問題が頻出です。
知識を定着させるためにも過去問にチャレンジしてみましょう。
老齢厚生年金に加算される加給年金額に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
- 加給年金額が加算されるためには、原則として、老齢厚生年金の受給権者本人の厚生年金保険の被保険者期間が25年以上あることが必要である。
- 婚姻の届出をしていない者は、老齢厚生年金の受給権者と事実上の婚姻関係にある者であっても、 加給年金額対象者となる配偶者には該当しない。
- 加給年金額が加算される老齢厚生年金の繰下げ支給の申出をした場合、加給年金額については、繰下げ支給による増額の対象とならない。
- 加給年金額が加算される老齢厚生年金について、在職老齢年金の仕組みにより、その報酬比例部分の全部が支給停止となっても、加給年金額については支給される。
それでは解説していきます。
❶不適切。
加給年金の受給には、厚生年金の被保険者期間が20年以上あることが条件となります。設問は25年以上としているので誤りです。
❷不適切。
加給年金は、65歳未満の配偶者または18歳未満の子がいる場合に支給されます。このうち、65歳未満の配偶者は、法律上の婚姻関係にない事実婚でも対象となります。従って、設問の記載は誤りです。
❸適切。
設問のとおりです。老齢厚生年金を繰下げ受給する場合、加給年金の受給開始時期も繰り下げられますが、加給年金の金額は増額されません。
❹不適切。
在職老齢年金の仕組みにより、報酬比例部分が全額支給停止になった場合、加給年金も支給停止になります。従って、設問の記載は誤りです。在職老齢年金は今後の学習範囲ですが、ここで覚えてしまいましょう。
以上により、正解は❸となります。
今回の学習は以上です。次回は”在職老齢年金”と”離婚時における厚生年金の合意分割制度”を学習します。
試験前の追い込みには“直前対策note”がおすすめだぞ