*このページは2020年8月8日に更新しました
- 配偶者居住権を理解する
- 特別受益と持戻しを理解する
- 寄与分と特別寄与料を理解する
改正民法(相続法)のポイント
2018年7月に、約40年ぶりとなる民法(相続法)の改正が行われました。
テレビや新聞、雑誌などでも大きく報道されていたため、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
1980年から長らく改正されていなかった民法(相続法)ですが、現代社会に合わせて様々な点が改正されています。
では、具体的にはどのような点が改正されたのでしょうか。
まずはFP2級でも出題される可能性がある主なポイントを整理しておきましょう。
- 配偶者居住権の創設
- 配偶者への自宅の特別受益が持戻しの対象外に(持戻し免除の意思表示の推定)
- 特別の寄与をした被相続人ではない親族の金銭請求が可能に
- 遺産分割前に被相続人名義の預金から一部払出しが可能に
- 自筆証書遺言に添付する財産目録がパソコンで作成可能に
- 法務局で自筆証書遺言書を保管する制度の創設
配偶者居住権
配偶者居住権とは
民法(相続法)改正の目玉が「配偶者居住権」の新設です。
配偶者居住権とは、被相続人が所有していた自宅に、被相続人の配偶者が無償で居住し続ける権利のことです。
所有権とは異なる権利として、新たに創設された権利になります。
たとえば、夫所有の自宅に夫婦で居住していたとします。
夫が死亡すると自宅も遺産分割の対象になりますが、次のような問題が生じることがあります。
- 妻が自宅を相続すると、その分ほかの金銭資産の取り分が少なくなり、生活に困窮してしまう恐れがある
- 自宅を換金して遺産分割すると、妻は金銭を相続することはできるが、生活の拠点を失ってしまう恐れがある
配偶者居住権はこうした問題に対応し、配偶者の生活を守るための制度です。
ケーススタディ
イメージが湧くように、少し具体的なケースで見ていきましょう。
Bさんの夫Aさんが亡くなりました。Aさんの資産は自宅(評価額:2,000万円)と預貯金3,000万円です。BさんはこれまでAさん所有の自宅に同居していました。相続人はBさんと子のCさんです。
配偶者居住権を利用しない場合
上のケースでは、相続人は配偶者と子です。
法定相続分は配偶者1/2:子1/2になりますね。
仮に法定相続分どおりに遺産分割をすると、取り分はそれぞれ2,500万円になりますが、配偶者のBさんは評価額2,000万円の自宅の所有権を相続すると、預貯金は500万円しか相続できないことになります。
人生100年と言われる時代ですから、500万円では老後の生活が少し苦しくなるかもしれません。
自宅を売却(換金)し、預貯金3,000万円と合わせてBさんとCさんで按分することもできますが、この方法だとBさんは生活の拠点を失うことになります。
配偶者居住権を利用する場合
それでは上のケースで配偶者居住権を利用するとどうなるのでしょうか。
配偶者居住権を利用する場合、自宅の所有権(評価額3,000万円)を配偶者所有権と負担付き所有権に分割します。
配偶者所有権と負担付き所有権の評価額はそれぞれ1,500万円とします。
Bさんが自宅の配偶者所有権(評価額1,500万円)を取得し、Cさんが負担付き所有権(評価額1,500万円)を取得するしましょう。
この場合、自宅に関する権利はBさんとCさんが1,500万円ずつ均等に取得するわけですから、現金2,000万円もBさんとCさんで均等に分割することになります。
結果的にBさんは配偶者居住権により生活の拠点を維持しつつ、現金1,000万円(2,000万円×1/2)も相続することができるというわけです。
持戻しと持戻し免除の意思表示
特別受益と持戻しとは
「特別受益」とは、被相続人から受けた贈与や遺贈のことを指します。
具体的には、被相続人から贈与を受けた学費や結婚資金、土地や建物の無償贈与などが挙げられます。
特別受益を受けた人のことを「特別受益者」といいます。
相続人の中に特別受益者がいる場合、実質的に特別受益者の取得財産が多くなり、他の相続人に対して不公平が生じてしまいます。
このため、特別受益財産を被相続人の遺産に加え、その合計額を相続財産とすることで、相続人同士の不公平を解消します。
このように、特別受益を相続財産に加算して遺産分割することを「持戻し」といいます。
イメージが湧くように、次のケースを見てみましょう。
被相続人である父の相続財産は4,000万円です。相続人は、妻・姉・妹の3人です。法定相続分に応じて遺産分割を行います。ただし、姉は父の生前、結婚資金として400万円の贈与を受けていました。
4,000万円を法定相続分に応じて分割すると、母2,000万円、姉1,000万円、妹1,000万円ずつ相続することになります。
しかし、姉は生前に400万円の特別利益を得ているため、これを持戻ししたうえで相続財産の計算を行うことになります。
つまり、相続財産はもともと4,400万円だったものとして計算します。
これを法定相続分に応じて再度計算すると、母2,200万円、姉1,100万円、妹1,100万円になりますね。
ただし、姉は既に受け取っている特別受益400万円があるため、相続における取り分は700万円(1,100万円ー400万円)になるというわけです。
持戻し免除の意思表示
原則として特別受益は持戻しの対象になりますが、被相続人が「持戻しをしなくてもOKだよ」と意思表示をしていれば、持戻しをしなくてもかまいません。
このような被相続人の意思表示のことを「持戻し免除の意思表示」といいます。
先ほどのケースにおいても、父が持戻し免除の意思表示をしていれば、姉は結婚資金の持戻しをする必要はないわけです。
持戻し免除の意思表示の推定
民法改正により、持戻しに関する新たなルールができました。
20年以上婚姻関係にある配偶者に対して、居住用建物や敷地を贈与または遺贈した場合、当該贈与や遺贈については「持戻し免除の意思表示」があったものと推定し、持戻しの対象にはしないというルールです。
これを「持戻し免除の意思表示の推定」といいます。
配偶者居住権と同じように、配偶者の生活を守るためのルールです。
贈与を受けた自宅が持戻しの対象になってしまうと、配偶者は相続による取り分が減ってしまい、生活が困窮してしまうかもしれません。
「持戻し免除の意思表示の推定」により、配偶者は贈与を受けた自宅を別枠として、通常の遺産分割により金銭資産等を取得することができることになります。
寄与分と特別寄与料
特別の寄与と寄与分とは
少し長くなってきましたが、もう少しなので頑張りましょう!
「特別の寄与」とは、生前の被相続人への貢献のことです。
被相続人の財産形成への貢献、被相続人の療養看護などが特別の寄与に該当します。
「寄与分」とは、特別の寄与をした人の相続財産の取り分をプラスすることで、相続人同士の公平性を守るためのルールのことです。
たとえば、被相続人である父の事業を手伝ってきた長男、あるいは仕事を辞めて長年父の介護をしてきた長女が、他の兄弟姉妹と同じ相続分では不公平ですよね。
こうした不公平を解消するために、特別の寄与をした相続人の相続財産をプラスし、プラス分を差し引いた金額を相続財産とみなして相続分を計算します。
特別の寄与をした被相続人以外からの金銭請求(特別寄与料)
寄与分が認められるのはあくまで相続人だけです。
つまり、子の配偶者がいくら献身的な介護をしたとしても、相続人ではないため寄与分の対象にはなりません。
しかしこれでは子の配偶者が報われませんよね。
こうした不公平を解消するために民法(相続法)が改正され、相続人ではない親族が介護など無償で特別の寄与をした場合には、相続人に金銭の請求ができるようになりました。
このような金銭を「特別寄与料」といいます。
子の配偶者は相続人ではないため、遺産分割の対象にはなりません。あくまで特別の寄与の見返りとして金銭を請求できるだけです。
まとめ
最後に今回の講義の重要ポイントをまとめておきます。
配偶者居住権 | ・被相続人の配偶者の生活を守るための制度 ・居住用不動産の権利を配偶者所有権と負担付き所有権に分割することで、配偶者が他の金銭資産の相続をしやすくする |
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持戻し | ・特別受益財産を相続財産に加算する制度 ・被相続人から持戻し免除の意思表示があれば持戻しは不要 ・配偶者への居住用不動産の贈与は、被相続人から持戻し免除の意思表示があったものと推定され、持戻しの対象にはならない |
寄与分 | ・特別の寄与をした相続人の相続財産をプラスする制度 ・相続人以外の親族で特別の寄与をした者は、相続人に対して特別寄与料を請求することができる |