【FP2級】健康保険と任意継続被保険者制度(公的医療保険❶)
今回から社会保険の学習に入ります。まずは公的医療保険を2回に分けて分かりやすく解説していきます。
- 社会保険の全体像を押さえる
- 健康保険の加入要件と給付を理解する
- 任意継続被保険者制度を理解する
試験前の追い込みには“直前対策note”がおすすめだぞ
社会保険の全体像と医療保険
社会保険の全体像
社会保険とは、医療保険、介護保険、年金保険のほか、広義では労働者災害補償保険や雇用保険といった労働保険も含めた公的保険制度の総称です。
このうち今回学習するのは、医療保険(公的医療保険)についてです。
国民皆保険制度と公的医療保険
日本は“国民皆保険制度”といって、誰もが公的医療保険に加入しなければなりません。
公的医療保険に加入することで、医療費が3割負担で済んだり、病気で働けなくなった時に給付金を受け取れたり、出産に伴う出産手当金や出産育児一時金がもらえたりします。
公的医療保険には、健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度の3つの種類があり、どれに加入するかは働き方や年齢によって変わります。
- 健康保険:会社員とその家族
- 国民健康保険:自営業者など
- 後期高齢者医療制度:75歳以上の者
75歳以上は会社員でも自営業者でも、後期高齢者医療制度の被保険者になります。どんなにバリバリ働いていても、75歳以上は健康保険や国民健康保険には入れません。
どの医療保険の被保険者になるかは、以下の図でイメージしてください。
健康保険
協会けんぽと組合けんぽ
ここからは“健康保険”を解説していきます。
法人の場合は全ての事業所、個人事業主の場合は常時使用する従業員が5人以上の場合、健康保険の適用事業所になります。
新たに適用事業所となった場合、その法人や個人事業主は5日以内に年金事務所に届出をしなければなりません。
健康保険には、“協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)”と“組合けんぽ(組合管掌健康保険)”の2つがあります。
それぞれの保険者(運営者)と被保険者(対象者)を整理しておきましょう。
保険者 | 被保険者 | |
---|---|---|
協会けんぽ | 全国健康保険協会 | 中小企業の従業員 |
組合けんぽ | 各企業の健康保険組合 | 大企業の従業員 |
なんで会社の規模によって種類が違うんだ?
組合けんぽを設立するには、一定以上の従業員数が必要だからです。
組合けんぽは福利厚生の一環として運営企業が保険料を低く設定できたり、協会けんぽよりも自由度が高いです。
一方で、相当数の被保険者がいないと保険制度自体が成り立ちませんから、従業員数の少ない企業では設立できないルールになっているわけです。
FP2級試験対策としておさえておきたいのは、保険料の負担ルールです。
- 協会けんぽ:保険料率は都道府県ごとに異なり、支払いは労使折半
- 組合けんぽ:保険料率は組合ごとに異なり、支払いは事業主が1/2以上を負担
協会けんぽの保険料は、会社と従業員(被保険者)が折半して支払います。
組合けんぽの場合、会社は最低でも1/2は保険料を負担しますが、福利厚生の一環として1/2以上を会社が負担することもできます。
労使折半が原則の健康保険に対して、次回学習する国民健康保険は全額被保険者が負担します。
健康保険の被保険者と被扶養者
健康保険では適用事業所で働く”被保険者”に加え、その親族も”被扶養者”として保険の給付を受けることができます。
ここからは健康保険の被保険者と被扶養者になる条件を見ていきましょう。
被保険者の範囲(パート・派遣社員の扱い)
正社員はもちろん健康保険の被保険者になりますが、難しいのはパートや派遣社員の扱いです。
パートや派遣社員であっても、以下に該当する場合は健康保険の被保険者となります。
- 1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が正社員の4分の3以上
- 以下の全てに該当する場合
☑︎従業員数が101人以上の企業に勤務
☑︎月収が88.000円以上
☑︎週の労働時間が20時間以上
☑︎2か月以上雇用見込みがある
☑︎学生ではない
雇用形態を問わず、相応に働いている人は正社員と同様に扱われるということです。
被扶養者の範囲
健康保険では適用事業所で働く本人だけでなく、その親族を被扶養者とすることができます。
被扶養者は保険料を支払う必要がありません。
このため、できるだけ家族を被扶養者にした方が家計の負担は少なくて済むわけです。
とはいえ誰でも被扶養者にできるわけではありません。
親族を健康保険の被扶養者にするための条件として、以下の点をおさえておきましょう。
このうち”3親等以内の親族”については、以下の点も押さえておきましょう。
細かい点ですが、過去のFP2級試験で出題されたこともあります。
- 配偶者・直系尊属・子・孫・兄弟姉妹
➡︎ 別居していても被扶養者にできる - それ以外の3親等以内の親族(甥・姪、叔父・叔母)
➡︎ 同居していなければ被扶養者にできない
健康保険の給付
給付の種類
ここからは健康保険の給付を解説します。
給付とは、病気や怪我をした場合などに健康保険の保険者から支払われる金銭のことです。
次の6つを覚えておきましょう。
こんなん覚えきれんぞ!!
ひとつひとつは難しくないから安心して!順番にわかりやすく解説していきます。
❶療養の給付
健康保険の被保険者が、業務外の病気やケガをしたときに、病院などで被保険者証を提示すると支払いは原則3割で済みます。残りの7割は健康保険の保険者が負担することとなり、これを“療養の給付”といいます。
対象となる治療費は、保険医療機関で受けた診察、手術、投薬、入院などの費用です。
健康保険では最も馴染みがある給付だと思います。
業務外ってことは、仕事中にケガしても給付は受けられないのか?
いいところに気が付いたね!業務中や通勤中のケガや病気は健康保険ではなく、労働者災害補償保険の対象になります。労働者災害補償保険はまた別の講義で解説します。
これら治療費に対する自己負担割合は原則3割ですが、次の例外があります。
- 小学校入学前の子どもと70〜74歳の者は2割負担
- ただし、70〜74歳の者でも現役並み所得者は3割負担
「あれ?75歳以上は?」と思ったかもしれませんが、75歳以上は”後期高齢者医療制度”の被保険者となるため、そもそも健康保険の給付対象にはなりません。この点は混乱しないように注意しましょう。
❷高額療養費
療養の給付により自己負担は最大3割とはいえ、重い病気などで医療費がかさむと家計は大変ですよね。
こうした医療費の過度な負担を抑えるための給付として、“高額療養費”の制度があります。
高額療養費とは、1か月の医療費の自己負担額が基準金額を超えた場合に、超過分が支給される制度です。所得が多い人ほど基準金額は高くなります。
❸傷病手当金
誰しも病気やケガによって働けなくなってしまうリスクがあります。しかし、長期入院などで給与がもらえなくなってしまっては大変ですよね。
そんな時に助かるのが“傷病手当金”です。傷病手当金は、業務外の病気やケガによって働けず、給与の支払いが受けられない場合に支給されます。
FP2級試験対策として次の点を押さえておきましょう。
覚える数字は多いですが、どれも重要なのでがんばりましょう。
まず❶の”連続して3日”というのがポイントです。
連続で休まなければならないため、【1日目:休み ➡︎ 2日目:休み ➡︎ 3日目:出勤 ➡︎ 4日目:休み】のようなケースでは支給されないということです。必ず3日連続で休まなければダメです。
次に❷の”標準報酬日額”とは、簡単に言うとその人の日給です。本来その人が受け取っていたいたはずの日給のうち、3分の2が傷病手当金として支給されるイメージです。
最後に❸の支給期間は、”通算で1年6か月”というのがポイントです。
支給開始日以降に出勤した日はカウントせず、休業日の通算で1年6か月に達するまでは支給を受け続けることができるということです。要するに連続した休みでなくてもOKということになります。
❸出産手当金
健康保険の被保険者が出産前後に会社を休み、会社から給与が支払われない場合、“出産手当金”の給付を受けることができます。
支給期間は、出産日以前の42日間と出産日以後の56日間の合計98日間です。
双子の場合や出産予定日が遅れた場合はこれよりも長い日数の給付が受けられます。
給付金額は1日当たり標準報酬日額の3分の2です。この点は傷病手当金と同じですね。
❹出産育児一時金・家族出産育児一時金
被保険者本人または配偶者が出産したとき、1児につき50万円が支給されます。
被保険者本人が出産したときに支給されるのが“出産育児一時金”、被保険者の配偶者が出産したときに支給されるのが“家族出産育児一時金”です。
妊娠4か月以上の出産で支給され、流産や死産でも支給されます。
一時金は病院に直接支払われます。不足分は自己負担になりますが、反対に費用が50万円未満のときは差額を受け取ることができます。
双子を出産した場合は倍額の100万円がもらえます。
❺埋葬料・家族埋葬料
被保険者が業務外の理由で亡くなったとき、葬儀を行う遺族等に“埋葬料”として5万円が支給されます。
また、被保険者の親族である被扶養者が亡くなったときは、被保険者に“家族埋葬料”として5万円が支給されます。
支給額は一律5万円ということだけおさえておこう!
任意継続被保険者制度
任意継続被保険者制度とは
健康保険は現役の会社員とその家族を対象としているため、原則として本人の退職後は健康保険に入ることはできません。
しかし、退職後であっても2年間限定で元の会社の健康保険に加入し続けられる制度があります。これが“任意継続被保険者制度”です。
退職後は、国民健康保険に新たに加入するか、子や配偶者などの被扶養者になるか、任意継続被保険者になるかのいずれかを選択することになります。
一般的には国民健康保険に新規加入するよりも、任意継続被保険者を選択した方が保険料が安く済むケースが多いといわれています。
任意継続被保険者の条件と特徴
任意継続被保険者には誰でもなれるわけではありません。
早速、任意継続被保険者になるための条件を整理しておきましょう。
任意継続被保険者制度では、保険料は全額自己負担になります。健康保険のときのように、会社が負担してくれることはありません。
被保険者・被扶養者とも、基本的には健康保険と同様の給付を受けることができますが、傷病手当金と出産手当金は支給対象外なので注意が必要です。
任意継続被保険者制度はFP2級試験で頻出です。しっかり理解しておきましょう。
過去問チャレンジ
最後にFP2級試験対策として、実際の過去問を見てみましょう。
公的医療保険に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
- 健康保険の被保険者の甥や姪が被扶養者になるためには、被保険者と同一世帯に属していることが必要である。
- 国民健康保険の被保険者が75歳に達すると、その被保険者資格を喪失し、後期高齢者医療制度の被保険者となる。
- 全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)の場合、一般保険料率は全国一律であるのに対し、介護保険料率は都道府県ごとに定められており、都道府県によって保険料率が異なる。
- 健康保険の被保険者資格を喪失する日の前日までに引き続き2ヵ月以上被保険者であった者は、原則として、被保険者資格を喪失した日から20日以内に申請することにより、最長で2年間、健康保険の任意継続被保険者となることができる。
(2022年1月 FP2級学科)
それでは解説していきます。
❶適切。
設問のとおりです。健康保険の被扶養者は、国内に居住する3親等以内の親族であることが条件です。このうち、配偶者・直系尊属・子・孫・兄弟姉妹は別居していても被扶養者にできますが、それ以外の親族(甥・姪、叔父・叔母)は被保険者と同居していることが要件になります。
❷適切。
設問のとおりです。健康保険・国民健康保険いずれの被保険者であっても、75歳に達した時点で被保険者資格を喪失し、後期高齢者医療制度の被保険者となります。
❸不適切。
協会けんぽの保険料は全国一律ではなく、都道府県によって異なります。一方、介護保険の保険料は全国一律です(介護保険の詳細はまた別の講義で解説します)。設問は協会けんぽと介護保険の保険料の説明が逆になっており、不適切です。
❹適切。
設問のとおりです。健康保険の被保険者が退職した場合、所定の要件を満たせば2年間限定で任意継続被保険者となることができます。任意継続被保険者制度はFP2級試験で頻出なので、細かい要件をしっかり整理しておきましょう。
以上により、正解は❸となります。
今回は長かったな・・・
医療保険はちょっとした山場です。次回はのテーマは国民健康保険と後期高齢者医療制度。今回ほど長くはないから安心してくださいね!
試験前の追い込みには“直前対策note”がおすすめだぞ