*このページは2020年8月9日に更新しました。
- 相続の単純承認・限定承認・放棄の違いを理解する
- 遺産分割と財産分割の方法を理解する
- 遺産分割前の預貯金の払戻し制度を理解する
相続の承認と放棄
相続人は相続の開始を知ってから、3か月以内に単純承認、限定承認、相続の放棄のいずれかを選択しなければなりません。
早速ですが、それぞれの違いを見ていきましょう。
単純承認
単純承認は、その名の通り、被相続人の財産全てを無条件で相続することです。
「全てを」というわけですから、資産だけでなく、借入金などの負債も込みで相続することになります。
相続の開始を知った時から3か月以内に限定承認または放棄をしなかった場合は、単純承認をしたものとみなされます。
限定承認
限定承認とは、相続する資産が負債よりも多いときに限定して相続をすることです。
明らかに資産が多いのであれば単純承認すれば良いのですが、被相続人の資産・負債は調べてみないと分からないこともあります。
もしかしたら、家族が知らなかった借入金があるかもしれませんよね。
このように、被相続人の財産状況が分からない時に限定承認を選択することがあります。
ただし、限定承認をするには、相続の開始を知った時から3か月以内に相続人全員で家庭裁判所に限定承認申述書を提出しなければなりません。
「3か月以内」と「相続人全員」というのが重要です。
裏を返せば、相続人1人だけが限定承認したいと思っていても、他の相続人が了解しないと限定承認は選択できないということです。
また、3か月以内に家庭裁判所に申述しないと、単純承認したものとみなされます。
- 限定承認をするには、相続人全員で家庭裁判所に申述しなければならない
- 3か月以内に限定承認しないと、単純承認したものとみなされる
相続の放棄
相続の放棄とは、被相続人の財産の相続を全て拒否することです。
相続を放棄すると、借入金などの負債を相続する必要は無くなりますが、預貯金や土地・建物などのプラスの資産も一切相続することができなくなります。
相続を放棄するには、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出しなければなりません。
3か月以内に相続を放棄しなかった場合は、単純承認したものとみなされます。この点は限定承認と同じですね。
限定承認と異なるのは、相続の放棄は単独でもできるという点です。
この違いがFP2級の試験で問われることがあるので、違いを整理しておきましょう。
限定承認 | 相続人全員で行わなければならない |
---|---|
相続の放棄 | 相続人が単独でもできる(相続人全員が放棄する必要は無い) |
相続を放棄した者は、初めから相続人ではなかったとみなされます。
また、相続を放棄した者の子は代襲相続人になることはできません。要するに、あえて相続を放棄して、自分の子に代襲相続させることはできないということです。
相続を放棄しても、被相続人を被保険者とする生命保険の生命保険金を受け取ることはできます。ただし、相続を放棄した者は生命保険等の非課税の適用を受けることはできません。生命保険等の非課税については、また別の講義で解説します。
まとめ
ここで相続の単純承認・限定承認・放棄のポイントをおさらいしておきましょう。
- 相続の開始を知った時から3か月以内に単純承認・限定承認・相続の放棄のいずれかを選択しなければならない
- 3か月以内に選択しなかった場合は、単純承認したとみなされる
- 限定承認は相続人全員で行わなければならない
- 相続の放棄は単独でもできる
遺産分割
遺産分割の種類
相続人が複数いる場合は、相続人同士で被相続人の財産を分割します。
遺産分割には、指定分割、協議分割、調停分割、審判分割といった種類があります。
順番に整理していきましょう。
指定分割
指定分割とは、被相続人の遺言(いごん)に基づいて分割する方法です。
被相続人が遺言書を作成していた場合の分割方法で、基本的には他の分割方法よりも優先されます。
協議分割
協議分割とは、相続人全員が話し合って遺産分割をする方法です。
被相続人が遺言書を作成していない場合には、基本的にこの協議分割の方法が取られます。
協議分割では、相続人全員で遺産分割協議を行い、内容について全員が合意したうえで、合意内容を遺産分割協議書に記載します。
遺産分割協議書には相続人全員の署名押印と、全員の印鑑証明書の添付が必要です。
なお、協議分割では相続人全員の合意があればかまわないので、必ずしも法定相続分に従う必要はありません。
被相続人が遺言書を作成していたとしても、相続人全員の合意があれば協議分割を選択することもできます。遺言が絶対ではないということですね。
調停分割
協議分割では相続人同士の利害が一致しないケースもあります。
調停分割とは、協議分割が整わない場合に、相続人の申し立てに基づき家庭裁判所の調停により遺産分割をする方法です。
審判分割
調停分割でも分割協議が整わない時の最後の手段が審判分割です。
家庭裁判所の裁判官の審判により、遺産分割の方法を決定する手続となります。
審判分割では、原則として法定相続分に応じた遺産分割がなされます。
財産分割の方法
遺産分割の内容が整ったあとは、実際に財産分割を行います。
財産分割の方法として、次の3つを押さえておきましょう。
現物分割 | 個別の財産ごとに所得する者を決めて分割する方法 |
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換価分割 | 相続財産を売却(換金)して、金銭により分割する方法 |
代償分割 | 特定の相続人が財産を一括取得して、代わりに自己の固有財産を他の相続人に支払う方法 |
代償分割(だいしょうぶんかつ)については、次のポイントを押さえておきましょう。
- 他の相続人が代償分割者から受け取った財産は、相続税の課税対象になる(贈与税ではないので注意!)
- 土地や建物などを代償分割資産として他の相続人に譲渡した場合、時価で譲渡したものとみなされ、代償分割者には譲渡所得として所得税・住民税が課せられる
遺産分割前の預貯金の払戻し制度
民法(相続法)の改正により、2019年7月から「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」が開始されました。
従来は、相続人は遺産分割が終了するまでは被相続人の預貯金の引き出しをすることができませんでした。
しかし、相続人にとっては葬儀費用や当面の生活費など資金が必要になることもあり、遺産分割を待っていては生活に困るようなケースも考えられますよね。
「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」とは、このような相続人の資金需要に対応するために、遺産分割の終了前でも被相続人の預貯金の一部を引出しできるようにした制度です。
金融機関から引出しできる金額の上限は、「預貯金の金額×法定相続分×1/3」かつ「150万円以内」となります。
法改正の内容はFP2級で頻出です。
過去問に頼れない分、内容をしっかり理解しておきましょう!