借地借家法❷借家権
借家権とは、他人の建物を借りる権利のことです。
借地借家法上の借家権には、「普通借家権」と「定期借家権」があります。
借地権と同様、2つの違いは契約期限が到来した時の契約更新の有無です。
期限が到来した時に自動更新されるのが普通借家権で、更新されないのが定期借家権です。
普通借地権
まずは普通借家権から学習します。
普通借地権の存続期間や契約の更新のルールは下の表の通りです。
契約方法 | 書面でも口頭でもOK |
---|---|
存続期間 | 1年以上 ※1年未満の期間を定めると、期間の定めのない契約となる。 |
契約の更新 | 原則として同一条件で更新 ※貸主が更新を拒絶する場合には、正当事由が必要。 |
普通借家権の契約は、書面でも口頭でも成立します。
契約の期間は1年以上で定めなければなりません。
仮に1年未満の契約期間を定めてしまった場合は、「期間の契約の定めのない契約」として取扱われます。
この点は借地権とは取扱いが異なるので注意が必要です。
普通借地権 | 普通借家権 | |
契約期間 | 30年以上 | 1年以上 |
上記未満の期間を定めた場合 | 30年とみなされる | 期間の定めのない契約とみなされる |
続いて契約の更新ですが、貸主は正当事由がなければ、契約の更新を拒むことはできません。
仮に正当事由があったとしても、契約期間満了の1年から6か月前までに借主に通知しなければならないというルールがあります。
借主としては、急に出て行けと言われても困ってしまいますからね。
貸主が契約更新を拒む場合の正当事由には、例えば自己使用の必要性、建物の増改築の必要性などがありますが、実は法律上は明確な決まりはありません。
貸主と借主でトラブルになった時は、個別の事案ごとに協議したり裁判で争うことになります。
実務上は、貸主から借主に立退料が支払われる場合には、正当事由が認められやすくなるようです。
逆に借主の方から契約を解除したいというケースもあります。
その場合、借主は契約期間満了の3か月前までに貸主に通知する必要があります。
貸主としても、当てにしていた賃料収入が急になくなっては困りますからね。
ただし、借主には正当事由は求められません。
ここが貸主から契約を解除する場合との違いです。
借地借家法は、基本的に借主側に有利になっているわけですね。
- 「貸主」が契約を解除する場合は、1年前から6か月前までに通知(正当事由が必要)
- 「借主」が契約を解除する場合は、3か月前までに通知(正当事由は不要)
定期借家権
続いて定期借家権を解説します。
定期借家権とは、契約更新がない期間限定の借家権です。
契約は必ず書面(公正証書ではなくてもOK)で行う必要があります。
定期借地権には3つの種類がありましたが、定期借家権に種類はありません。
このため、定期借家権には用途の制限はなく、居住用でも事業用でもかまいません。
また、契約期間にも制限はなく、1年未満の契約でもOKです。
もともと更新がないわけですから、期間満了時に契約更新をしないことについて、貸主に正当事由は求められません。
定期借家契約では貸主に対し、2つの説明・通知を求めています。FP2級の試験では頻出なのでしっかりおさえておきましょう。
契約前 | 契約の更新がなく、期間満了により契約が終了することを書面を交付して説明しなければならない →説明を怠ると普通借家契約になる |
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契約期限の1年〜6か月前 | 契約期限の満了が迫っていることを通知しなければならない(契約期間が1年未満の場合は不要) →通知を怠ると、借主は現在の条件で建物を使用し続けられる |
ところで定期借家契約では、特約がない限り、原則として中途解約はできません。
しかし、借主からの中途解約については、次の条件を満たせば認められます。
- 居住用の建物で床面積が200㎡未満であること(事業用や広すぎる建物はダメ)
- 転勤、療養、親族の介護など、やむを得ない事情があること
- 中途解約日の1か月前までに申し出ること
普通借家権から定期借家権への切り替え
貸主からすると、普通借家契約では解約が難しく、なかなか自由に建物を使えないことから、定期借家契約に変更したいというケースがあるかもしれません。
一方で、借主からすると普通借家権から定期借家権への切替えは、期間満了に伴う契約更新がない分、不利益な契約変更になってしまいます。
このため、普通借家権から定期借家権への切替えは、事業用が居住用の場合は認められていません。仮に貸主と借主で合意してもダメです。
ただし、建物が事業用の場合は両者の合意により、普通借家契約から定期借家契約への切替えが認められています。
事業用の場合は、自己責任ということですね。
- 居住用は不可(貸主と借主が合意してもダメ)
- 事業用は可
造作買取請求権
聞きなれないと思いますが、「造作買取請求権(ぞうさくかいとりせいきゅうけん)」という言葉を覚えておきましょう。
造作買取請求権とは、貸主の同意を得て建物に取り付けた造作物(畳や建具、空調設備など)については、期間満了時に貸主に時価で買い取るよう請求できる借主の権利です。
例えば、借主が取り付けたエアコンを退去時に時価で買い取ってもらえるわけです。
ところで造作買取請求権は、特約で排除することも可能です。
つまり、あらかじめ造作買取請求権を排除する特約を結んでいた場合は、借主は造作買取請求権を行使することはできません。
普通借家契約と定期借家契約の違い(まとめ)
最後に普通借家契約と定期借家契約の違いを整理しておきましょう。
普通借家契約 | 定期借家契約 | |
契約更新の有無 | あり | なし ※貸主は契約更新がないことを書面で説明する必要あり |
期間 | 1年以上 ※1年未満で定めると契約期間の定めのないものとなる |
自由 |
契約方法 | 口頭でもOK | 必ず書面(公正証書以外でもOK) |
契約終了に関する貸主の通知義務 | 期間満了の1年〜6か月前までに通知(正当事由必要) | 期間満了の1年〜6か月前までに通知(正当事由不要) |
先ほど学習した造作買取請求権は、普通借家契約でも定期借家契約でも取扱いに違いはありません。